あれも聴きたいこれも聴きたい-GratefulDead10
 グレイトフル・デッド・レコードの第一作目となるデッドの10枚目のアルバム「ウェイク・オブ・ザ・フラッド」です。発売当時は「新たなる夜明け」なる邦題がついていました。私にとっては初めて買ったデッドのレコードですから思いれも一入です。

 中学校の頃に擦り切れるくらい聴いたアルバムである上に、美術の授業の際にこのジャケット絵を模写してエッチングにした作品が先生に大そう褒められた記憶まであります。一般的にはデッドの代表作でもなんでもないのですが、私にはまぶしすぎるアルバムです。

 この作品は実に3年ぶりのスタジオ作品です。そして、なんと10人ものゲスト・ミュージシャンがフィーチャーされています。こんなことはこれまでありませんでした。レコード会社のみならず旅行会社や興行会社まで作ってしまったデッドのお祭り気分が反映されています。

 さらに、この頃のデッドはコンサートでの音響を追求するあまり、641個もの大スピーカー群をステージに積み上げるようになりました。これがかの有名な「ウォール・オブ・サウンド」です。これだけの数のスピーカーを並べても音はとてもクリアだったといいますから凄い。

 しかし、こんな音響セットの維持運営にはお金がかかることは間違いありません。デッドの面々はヒット・アルバムを放って何とかやりくりしようと考えたんだそうです。正しいお金儲けの動機であるといえます。私利私欲に走らないデッドの経営哲学がつらぬかれています。

 本作品はキース・ゴッドショウの影響と言われますが、これまでのデッドのサウンドに比べるとジャズっぽいフィーリングにあふれています。そこが本作品の最大の特徴です。もう一つは多彩なゲストによるバイオリンやホーン、ティンバレスなどの導入でしょう。

 また、初めてキースが作曲をした上にリード・ボーカルをとる曲が登場しました。二曲目の「レット・ミー・シング・ユア・ブルース・アウェイ」がそれで、脱力気味のボーカルがデッドにぴったりです。ダナ・ゴッドショウの方は今回もさほど目立っていません。

 作曲者でいえば、デッドとツアーを共にしていたシンガーソングライターのエリック・アンダーソンが「ウェザー・リポート組曲」のパート1を担当していますし、パート2にはロバート・ハンターに次ぐ作詞家としてジョン・バーロウが登場しています。

 そんな中で、私は冒頭の「ミシシッピ・ハーフステップ・アップタウン・トゥーデルー」という曲が大好きです。ぽわんぽわんしたジェリー・ガルシアのギターと真夏の太陽のような緩いリズムがたまりません。私にとってのデッドのイメージはこの曲で決まってしまいました。

 しかし、一般には今一つのアルバムだと言われています。それは、このアルバムの代表曲の一つ「アイズ・オブ・ザ・ワールド」をボートラ収録のライヴと聴き比べてみると分かります。やはりライヴの方がいいです。スタジオでの録音の仕方を忘れていたのかもしれませんね。

 なお、グレイトフル・デッド・レコードの船出となったこの一枚はそこそこヒットしたのですが、海賊盤に悩まされてかなり損をしたそうです。日本だと海賊盤といえば未発表ライヴが相場ですが、アメリカではなんとレコードをそのまま複製して販売する輩がいたんですね。

Wake Of The Flood / Grateful Dead (1973 Grateful Dead)

*2011年11月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Mississippi Half-Step Uptown Toodeloo
02. Let Me Sing Your Blues Away
03. Row Jimmy
04. Stella Blue
05. Here Comes Sunshine
06. Eyes Of The World
07. Weather Report Suite
Prelude
Part I
Part II (Let It Grow)
(bonus)
08. Eyes Of The World (live)
09. Weather Report Suite (studio acoustic demo)
10. China Doll (studio outtake)

Personnel:
Jerry Garcia
Bob Weir
Phil Lesh
Keith Godchaux
Donna Godchaux
Bill Kreutzmann
***
Bill Atwood : trumpet
Vassar Clements : violin
Joe Ellis : trumpet
Martin Fierro : alto & tenor sax
Sarah Fulcher : vocal
Matthew Kelly : harmonica
Frank Morin : tenor sax
Pat O'hara : trombone
Doug Sahm : guitar
Benny Velarde : timbales