あれも聴きたいこれも聴きたい-GratefulDead09
 ヨーロッパ・ツアーを終えたグレイトフル・デッドの次なる計画は自分たちのレーベルを立ち上げることでした。グレイトフル・デッド・レコードとなる自主レーベル立ち上げのためには、ワーナー・ブラザーズとの契約を終了する必要がありました。

 ワーナーのデッドに対する扱いはザッパ先生などに比べるとずいぶん良心的に感じますが、当時はそう思えなかったのかもしれません。いずれにせよ、ワーナーへの契約上の義務を履行して自由になるためにアルバムがもう一枚必要ということで本作品が制作されました。

 タイトルは「グレイトフル・デッドの歴史その1」となっています。ベスト・アルバムかと思ってしまいますけれどもそうではありません。さらに同時期に「ヒストリー・オブ・ザ・グレイトフル・デッド」なるアルバムも発表されていますが、これもまた本作品とは関係ありません。

 「ヒストリー」は先に発売されていたヴィンテージ・デッド」と「ヒストリック・デッド」という1966年のライヴを収めた本人無許可の公式盤を1枚にまとめたものです。サンフラワーというレーベルからで、ワーナーからのデビュー前の音源でもあり、海賊盤ではありません。

 話がそれました。本作品はデッドのサウンドマンとして、彼らのライヴ音源を素晴らしい音で録音し続けてきたベアーことオウズリー・スタンレーに選曲を始め、何から何までまかせて制作されました。「その1」ですから、その後も続けていくつもりだったのかもしれません。

 結果として選ばれたのは1970年2月13日と14日の両日、ニューヨークのフィルモア・イーストにて行われたライヴからの音源です。当時のフィルモアは一日に二回のライヴが標準でした。本作品の音源はいずれもレイト・ショウの演奏です。

 ライヴの時期は最初の「ライヴ/デッド」の1年後、「スカル&ローゼズ」の1年前、「ヨーロッパ72」の2年前です。要するに公式に発表されたライヴ音源としては最も初期のものです。その意味では「歴史」とするのは大変適切でもあります。

 この頃のデッドのライヴはアコースティック・セットとエレクトリック・セットの二部構成になっており、本作品はそこも忠実にA面にアコースティック、B面にエレクトリックの両セットを配しています。そのこともまた「歴史」にふさわしい配置となっています。

 しかし、この作品にはもう一つ重要な意味があります。そうです。1973年3月に亡くなったピッグペンの追悼です。オウズレーは選曲に際してピッグペン追悼を企図していたことを明言しています。その通り、本作品はまさにピッグペン祭りといっていい内容になっています。

 冒頭の「ケイティー・メイ」ではピッグペンのボーカルのみならずギターも聴くことができますし、B面に至っては、ブルース男ピッグペンがボーカルをとるハウリン・ウルフとオーティス・レディングの楽曲に占められています。もはや涙なしには聴けません。

 時期的にもゆるふわな演奏ではなく、ピッグペンのボーカルによく似合うタイトに引き締まってどすの効いた演奏が楽しめます。ボートラでも4曲中3曲はピッグペンのボーカルをフィーチャーしており、まさにピッグペンを中心としたデッドの歴史を示す作品です。

History of the Grateful Dead vol.1 (Bear's Choice) / Grateful Dead (1973 Warner Bros.)

*2011年11月23日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Katie Mae
02. Dark Hollow
03. I've Been All Around This World
04. Wake Up Little Susie
05. Black Peter
06. Smokestack Lightnin'
07. Hard To Handle
(bonus)
08. Good Lovin'
09. Big Boss Man
10. Smokestack Lightnin' (version two)
11. Sitting On Top Of The World

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Ron McKernan (Pigpen) : guitar, organ, harmonica, percussion, vocal
Phil Lesh : bass
Bill Kreutzmann : drums
Mickey Hart : drums