あれも聴きたいこれも聴きたい-OnukiTaeko02
 大貫妙子は前作のライナーで「いつの間に、3部作にされたのだろうと、その軽薄さに呆れていました」と書いていました。そして、今作のライナーでは「ここまで、ヨーロピアン3部作と称してアルバムを作ってきた」と、軽薄さに根負けしてしまったようです。

 しかし、そのおかげでこうしてパリでレコーディングすることになったわけですから、軽薄さも時には果実を生むものです。大貫妙子にとっては初めての海外レコーディングとなり、「夢のような日々でした」と興奮気味です。

 この作品の6割はフランスで録音されました。フランシス・レイのほとんどの曲をアレンジしているから、という理由でジャン・ミュジーを編曲に迎えて録音に臨んでいます。この頃のテクノ・ポップな曲想とは随分違って、実にヨーロピアン、実にフレンチです。

 とりわけオーケストレーションがとても美しいことになっています。「パリのオーケストラの奏でる音は、それまで日本で聞いていたものとはまったく違っていました」と大貫妙子は語っています。インドのオーケストラも違いますし、やはりお国柄が出てきます。

 ここらあたり、トーキング・ヘッズを巡る中村とうようと渋谷陽一論争を思い浮かべます。黒人音楽のリズムが欲しいからと言って黒人を連れてくるとは何たることか!とその是非を巡る論争です。私はとうよう派なので、本場で本場の音と共演するのに全く違和感はありません。

 今回はむしろフランスのミュージシャンが、日本人がフランス人よりもあまりにフランスな曲を書くと言ってどよめいたそうですから、両方にとっていいことだらけだったようです。古き良きフランスが日本人の中に生きていたなんて!

 全部パリ録音でいってもよかったんではないかと思いますが、大人の事情でしょうか。最初の4曲は、コマーシャルに使われた「黒のクレール」や「ピーターラビットとわたし」というシングル曲を含む坂本龍一アレンジのポップな曲が並んでいます。意外とこの濃密さがいいです。

 ドラムを坂本龍一が叩いていて、これが大貫妙子のボーカルと妙にマッチしています。前作では特に高橋幸宏のジャストなドラムとの相性がどうなのかなと思っていましたが、こうしてドラム専門じゃない人のドラムのバッキングを得て、居心地がよさそうです。面白いものです。

 パリ編はそれこそあまりにフランス的なオーケストラを得て、「自分の曲であるという感動に震えていたのです」と語る通り、パリならでは、ミュジーならではの編曲で、これまでの大貫妙子とは少し違う、大きな音楽になっています。

 それまでの3部作からの脱却でしょうか、それとも実際にヨーロッパで仕事をしてのヨーロピアン観の再構築なのか、ジャケットは3部作とは全く変わって色彩豊かになりました。「色彩都市」という名曲がありますから、きっとそのコンセプトなんでしょうけれども。

 まとまりがあるような、二つのミニアルバムを足したような、そんな感じのアルバムですが、素敵なアルバムであることには変わりありませんし、歳をとった今聴いた方が昔よりもしっくりくる、いい歳のとり方をしたアルバムだと思います。

Rewritten on 2018/5/26

Cliché / Taeko Ohnuki (1982 RVC)