あれも聴きたいこれも聴きたい-OnukiTaeko
 このアルバムが発売された当時、私は大貫妙子がアイドル的に好きでした。ただ、アイドルではないアーティストにそういう気持ちを抱くのは何だか失礼なような気もして複雑な思いでした。まだ私も若かったです。

 この作品は大貫妙子のヨーロッパ三部作の最終章、だとばかり思っていたのですが、再発された紙ジャケCDのライナーでご本人がきっぱり否定されています。三作ともタイトルがフランス語で、ジャケ写が単色でおしゃれな写真でしたから、三部作っぽいんですが。

 ともかく、このアルバムの雰囲気はヨーロッパです。ここでの「ヨーロッパ」はアングロ・サクソンじゃない白人、それも憂鬱なゲルマンでもなく、能天気なディープ・ラテンでもない。要するにフランスです。

 それもジダンやレ・バンナのフランスではなくて、フランソワーズ・モレシャンのフランス、映画「男と女」のフランス、プロヴァンスのフランスです。かわいい女の子と中年オヤジのフランス。外国人が考える、もはやフランスを通り越して無国籍に到達したフランス。

 大貫妙子は、本作品の3分の2は何らかの映画を元に歌詞が書かれていると語っています。恐らくはハリウッド映画ではなく、ヨーロッパの映画なのでしょう。アルバムから色濃く立ち上ってくるヨーロッパ風味はおそらくそのせいです。

 ここで元になった映画のタイトルをずらずら挙げることができれば、第1級のファンとして鼻が高いところですが、私には無理でした。歌詞から喚起されるイメージでフランス映画あれこれを思うだけにとどまります。

 私は彼女のボーカルが大好きです。日本語をメロディーに乗せて歌う時に、英語風にぶつぶつ歯切れ良く歌わないところが魅力です。同じような歌い方をするボーカリストとして、私の中では忌野清志郎と甲本ヒロトがいます。曲調は違いますが、同じ匂いを感じるんです。

 そういう唄い方をする人は歌謡曲や演歌にも見当たらず少数派にとどまります。恐らくボーカルの先生が矯正するんでしょう。モーニング娘。のオーディションを見ていてそんなことを思ったものです。日本語はこういう唄い方をした方が気持ちいいのに、と思ってしまいます。

 本作品はYMOや加藤和彦などが全面的に参加していて、当時の先端の音に仕上がっています。発表当時は新鮮に感じていたのですが、今聴いてみるとちょっとチャラい感じがしますね。特に打ち込みサウンドなどに時代を感じてしまいます。

 たとえば一曲目の「恋人たちの明日」。エレクトロニクスの使い方が何ともあの時代です。彼女が「若いサウンド」と評するのはこうしたサウンドのことでしょう。ただしその若さのおかげで明るい陽気なポップスが現出しているわけでもあります。

 二曲だけ日本の歌謡界の重鎮、前田憲男が編曲している曲が入っていて毛色が違います。オーソドックスな歌謡曲的アレンジのそちらの方が今聴いても色褪せていないというのは面白いものです。「プロの仕事だ!」と大貫さんも感嘆したそうです。

Edited on 2018/5/26

Aventure / Taeko Ohnuki (1981 RVC)