あれも聴きたいこれも聴きたい-AgawaYasuko 27日の日経新聞に阿川泰子さんのインタビュー記事が載っていました。「いろいろな曲を歌ってきて、ジャズの準備運動ができた気がしています。そろそろ王道という感じのアルバムを作り、『ようやくジャズシンガーになったね』と言われたいですね。」

 何という謙虚さでしょう。真理の大海原で石ころを拾う子供に自身を例えたアインシュタインに匹敵する謙虚さだと言えるでしょう。彼女のこうした素直な人柄が音楽ににじみ出ているところが大きな魅力です。

 ジャズ界というのは保守的なイメージがありますから、「美人だからっていい気になるなよ」的な嫌味を何度も言われたんでしょうね。それでも真っすぐな彼女は曲がりませんでした。素晴らしい。

 保守的と言えば、このアルバムが発表された当時の私などは若造でしたから、フュージョンなんて音楽じゃないと思っていました。それにネクタイ族のアイドルと言われた彼女ですから、ネクタイをしていなかった私には全く縁のない存在でした。

 それが94年の英国のレアグルーヴのコンピ盤に、彼女の「LAナイト」が収録されていたのを聴いたことがきっかけで彼女のことが気になるようになりました。外国での評価で初めて国内のアーティストを見直すといえば恥ずかしい話ですが、ことはフュージョン全般に係わることですから、ちょうどその時期だったということでしょう。

 このアルバムは81年に発売されたブラジリアンなアルバムで、ジャズ・ボーカルものとしては異例の30万枚を超す大ヒットになりました。それまでは比較的スタンダードが多かった彼女ですが、ここではサンバやボサノヴァなども歌っています。しかも全曲英語でくせのない歌唱を披露して、素敵です。アレンジは大半が松岡直也、中森明菜の「ミ・アモーレ」の人です。

 代表曲となったのは、ヴィヴァ・ブラジルのオリジナル「スキンドゥー・レ・レ」です。ロンドンのクラブでも大ヒットしたそうです。私の一押しはアントニオ・カルロス・ジョビンの「パードン・マイ・イングリッシュ」の軽快なタッチです。

 バックの演奏もとてもしゃれていて素敵です。レア・グルーヴというのはこういうものを指すんですね。日本では大ヒットですからレアではありませんが、欧米だとレアということになってしまうところがちょっと残念です。

Sunglow / Yasuko Love-Bird (1981)