あれも聴きたいこれも聴きたい-Focus フォーカスをご存じの方もそうでない方もまずはビデオをご覧ください。この曲「悪魔の呪文」は全米トップ10ヒットとなっています。

 笑っちゃいますよね。初めて見たのは随分昔のことですが、大笑いしたことを覚えています。でもカッコいい曲ですよね。笑いながらも耳を奪われていったのでした。

 フォーカスはオランダのバンドです。オランダには一度観光に行ったことがあります。郊外のチューリップ畑はイメージ通りだったわけですが、アムステルダムの街は随分とファンキーでした。ベビーカーを押して歩いているといきなり飾窓に出くわしたり、王宮前広場に移動遊園地が出来ていたりと、思っていた姿とは随分違いました。

 そんなオランダの姿がフォーカスにもダブります。わが道を行っていますよね。どこか英米のプログレ・バンドにはない潔さを感じさせてくれます。天晴です。

 「悪魔の呪文」だけを聴くと、ハードロック・バンドのようです。ボーカルは奇妙キテレツですが、かっこいいリフを主体としたロックですから。しかし、この「全世界で絶賛の嵐を呼び起こし、一躍フォーカスの名を轟かせた不朽の名作!!」には、そうした曲は「悪魔の呪文」だけです。

 むしろ「プログレッシヴ・ロックの真髄として永遠に語り継がれるであろう歴史的名盤!!」なんですね。変な顔で歌っていますが、幼少期からクラシック・ピアノを学んでいたタイス・ヴァン・レアと、独学でロック、ジャズ、クラシックのギターを身に付けたヤン・アッカーマンを中心としたフォーカスは、クラシック的な展開を得意とするプログレ・バンドです。

 このアルバムでもアッカーマンの手になる「ジャニス」などはタイスのフルートを中心に据えた穏やかな名曲です。B面全てを費やした組曲「イラプション」はヴァラエティにとんだ構成の妙が味わえます。クラシック的な展開ですね。加えて全体にアッカーマンのギターが独学クラシック的でとても新鮮な響きです。

 「悪魔の呪文」のヒットに導かれるようにアルバムも英米を始め各地で大ヒットして、フォーカスの名前は永遠となりました。この後もなかなか力作を発表し続け、バンドは解散したものの、メンバーは今でも現役で活躍しているそうです。

 しかし、「悪魔の呪文」の印象が強すぎて、私はこれ以外のアルバムを聴いたことがありません。お腹一杯になってしまったのでした。

 ところで、紙ジャケ再発盤に封入されている歌詞カードに「『悪魔の呪文』の歌詞は割愛させていただきます。ご了承ください」とあります。お茶目な断り書きです。

Moving Waves / Focus (1971)