あれも聴きたいこれも聴きたい-PabloPicasso 大手の本屋さんに行けば、英米はもちろんのこと、ドイツ、フランス、イタリアなどの欧米諸国のロックの歴史をまとめた本はすぐに手に入ります。しかし、日本のロックの歴史となると、とたんに心もとなくなります。

 一応、本はあることはあるんですが、決定版はないような気がします。恐らくそれは日本のロックがマイナーだからなんでしょう。ヒットチャートをにぎわすメインストリームがないからだと思います。ロカビリー旋風からグループ・サウンズの頃はそれでも一致していたのでしょうが、その後はキャロルくらいしか思い浮かびませんからね。Jポップ時代になると少し話が違ってくるでしょうが。

 しかし、80年代初めの自主制作時代のことは意外にしっかりと記録も残っていて、決定版化しています。それは当時テレグラフ・レコードを主宰していた地引雄一さんの丁寧な仕事に負うところが大きいと思います。もちろん当事者の一人ですから、当時、全国規模で展開していた別の当事者の事柄まで網羅しているというわけではありませんが、それでも大そう貴重なお仕事だと思います。感謝。

 そうして、テレグラフ・レコードの音源は丁寧に復刻されています。このパブロ・ピカソのアルバムもその一つです。私は当時は「紫外線」のシングル盤を持っていただけなのですが、潔い若さに溢れたその一枚を随分大切にしていました。

 パブロ・ピカソは、ジョナサン・リッチマンの歌「パブロ・ピカソ」から採った名前で、あのピカソに直接ちなんだ名前ではありません。しかし、さすがに言霊なんでしょうか、アートな雰囲気に溢れています。

 メンバーの写真がブックレットにありますが、まだ20歳前後だったはずなのに、昭和一桁の青春のような妙な空気漂う写真です。刈り上げにぶかぶかのシャツとパンツ。小ぎれいで、パンクという言葉とは少しイメージが違います。

 肝心の音ですが、最初のシングルはまるでフリクションです。曲想から唄い方、歌詞の内容までもう直接フリクションのコピーのようです。しかし、それが悪いかというとそんなことはなくて、根性が入っているのでよいのではないでしょうか。私は好きです。

 アルバムは、最初のシングルからボーカルが脱退していますし、サックスが入ったり、キーボードが入ったりと、華麗な変身を遂げています。ポップになったわけではなくて、ポスト・パンクの重鎮たちが辿ったようなヘビーな路線に変化しています。時代の変化にとても敏感だったバンドです。

 今回、初めて聴いたのがライブ。楽器のそこそこうまい極上の素人バンドという感じです。結構若い割には老成した感じのバンドだと思っていたのですが、ライブでの疾走感は素晴らしいなと思いました。ライブを見てみたかったです。

Types 1981-1985 / Pablo Picasso (2010)