あれも聴きたいこれも聴きたい-Pedro 昭和のキャバレー!といったジャケット写真が強烈です。初代ボーカリスト前野曜子を擁するペドロ&カプリシャスのデビュー・アルバムです。ペドロ&カプリシャスと言えば高橋真梨子の方が有名ですが、当時小学生だった私には、強烈に大人の女をみせつけた前野曜子ヴァージョンの方が忘れられません。

 「東の東大、西の宝塚」と言われる超難関宝塚音楽学院を卒業した前野曜子さん、その歌唱力は素晴らしいです。自然なビブラートが堪りません。綺麗綺麗なつるっとした録音にも係わらず、圧倒的な表現力は類をみない迫力です。

 このアルバムのタイトルにもなったシングル「別れの朝」はいきなり4週連続1位を記録する大ヒットとなりました。ウッド・ユルゲンスという人の曲になかにし礼が日本語詞をつけた楽曲です。テレサ・テンや朱里エイコなどもカバーして、スタンダードになっていますね。

 いい曲ですし、前野さんのだんだん盛り上がる歌唱も素晴らしいです。しかし、ちょっと待って下さい。ペドロさんはどうした、前野さん以外のメンバーはどうしたんでしょう。この曲を始め、シングル・ヒット曲しか知らない人は、ペドロ&カプリシャスのことを内山田洋とクールファイブのようなコーラス・グループだろうと思っている人もいるのではないでしょうか。そうではありません。このアルバムの終盤を聴けば分かります。

 このアルバムは全12曲入りで、日本人の曲はわずかに3曲。残りは洋楽のカバーで、特にB面は全て洋楽を英語詩のまま歌ったものです。

 そのラスト3曲だけが、バンド・メンバー自身が編曲を手掛け、ほぼバンドだけで演奏した曲になりますが、それが素晴らしいんです。ギターが大活躍する「出ておいでよ!お嬢さん」。ウィングスの曲です。そして、ジャニスとためを張らんばかりの前野曜子の凄いボーカルが聴ける「ムーヴ・オーバー」。ペドロさんのラテン・パーカッションがうなりまくる「ブラック・マジック・ウーマン」。演奏も素晴らしいんです。

 日本人の名誉のために一言申し上げるとかまやつひろしの作曲になる「夜のカーニバル」もバンド演奏が中心となっていて、そのグルーブ感はとてもいい感じです。

 当時の歌謡界の事情なんでしょうかねえ、やたらとストリングスなんかをかぶせて、バンドをないがしろにする演奏にしてしまいます。レコード会社のお偉いさんが主張するんでしょうねえ。まあ実際に「別れの朝」は大ヒットしましたから、彼らが正しいのかもしれませんが。

 この人たちには勝手にさせておけば、もっと素晴らしいアルバムになったでしょうに。

別れの朝 / ペドロ&カプリシャス (1972)