あれも聴きたいこれも聴きたい-TRex05
 間が悪いアルバム大賞というものがあるとすると、Tレックスの同名アルバムである本作品がその栄誉に輝くのではないでしょうか。気合の入ったアルバムなのに、発売時期のせいでかなり残念な結果になってしまいました。時期だけの問題です。

 ティラノザウルス・レックスは前作でスティーヴ・ペレグリン・トゥックからミッキー・フィンへのメンバー交代を経験しました。さらに本作品からはバンド名も短くTレックスとしました。そして音楽にも大きな変化が訪れ、試行錯誤をへて新しいスタイルがみつかりました。

 マーク・ボランは「ヒット曲をつくるコツをつかんだんだ。これから先、ずっとNo.1シングルを書き続けられそうな気分だよ」と自信たっぷりに語っています。ボランのこの言葉がはったりでもなんでもなかったことは後の足跡が証明することになります。

 しかし、そのコツをつかんだのは、全く間が悪いことに、このアルバムが完成してから発表されるまでの間に録音して発売したシングル曲「ライド・ア・ホワイト・スワン」での出来事なのでした。このシングル曲は全英チャートの2位にまで上がる大ヒットとなりました。

 これまでのTレックスとは一線を画すこの曲の発表が1970年10月のことです。この曲はTレックスと聞いてまず思い浮かべるサウンドと同居しても全く違和感がありません。まさにグラム・ロックの大スターとしてのTレックスのデビューと言ってもよい楽曲です。

 そうして新しいファンを獲得し、世間の期待が高まる中、同じ年の12月に発表されたのが本作品です。いわば神が降りてくる前に録音されたアルバムです。おまけに話題のシングル曲はアルバムには入っていないという肩透かしぶりです。

 本作品も一応全英チャートでは13位まであがっていますけれども、それはこれまでのティラノザウルス・レックスとほぼ同じで、「ライド・ア・ホワイト・スワン」の成功とは異質のものでした。「前に録音したアルバムだから」とボランも言い訳をしています。

 そんなわけで何とも残念な話になってしまいました。しかし、そんなタイミングでなければ、もう少し光が当たってもおかしくないアルバムです。前作に引き続いて、歌詞はよりシンプルになり、明るいロック色が強まっています。スワン家の方に突き抜けてはいませんが。

 本作では、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティがアレンジするストリングスが導入され、後に大きな役割を果たす元タートルズの二人、フロー&エディーのコーラスが初めて登場しました。徐々にみんながよく知るTレックスが近づいてきました。

 ティラノ風のアコースティックな曲とブギっぽいロック曲が半々で構成されており、いずれの曲もけっして質は悪くありません。いかにも過渡期的なアルバムで、何かが起こりそうな予感がします。せめて「スワン」の前に発売していれば良かったのに。

 ジャケットはスター然としてきました。写真からは分かりにくいですが、変形ジャケットとなっており、彼らの顔を起こすと裏面と一体になって全身のピンナップが表れる仕組みです。ジャケットとしては大出世作「電気の武者」よりもグラマラスです。

T.Rex / T.Rex (1970 Fly)

*2011年9月28日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Children Of Rarn
02. Jewel
03. The Visit 訪れ
04. Childe
05. The Time Of Love Is Now 今こそ愛の季節
06. Diamond Meadows ダイアモンドの牧場
07. Root Of Star
08. Beltane Walk
09. Is It Love?
10. One Inch Rock
11. Summer Deep
12. Seagull Woman
13. Suneye
14. The Wizard
15. The Children Of Rarn
(bonus)
16. Ride A White Swan
17. Summertime Blues
18. Poem
19. The visit (take 4)
20. Diamond Meadows (take 6)
21. One Inch Rock
22. Seagull Woman
23. The Wizard
24. The Children Of Rarn

Personnel:
Marc Bolan : guitar, vocal, bass organ
Micky Finn : drums, bass, vocal, pixiephone
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Howard Kaylanm Mark Volman : chorus
Tony Visconti : strings arrangement