あれも聴きたいこれも聴きたい-TRex4
 もやもやしていたものがすっきり晴れ渡るということがままあるものです。決して離れられないと思っていた人や物と悩みに悩んだ挙句に別れてしまって、さぞや心が重いだろうと覚悟していたのに、驚くほど爽快な気持になるというようなことです。

 このアルバムでは、マーク・ボランの喜びといいますか、心の軽さが一曲目から全開になっています。もう明るい明るい。歌詞は短めでかつ分かりやすくなりましたし。ヒッピー文化に影響を受けたアングラの星もいよいよ陽の当たる場所に出てきた感じがします。

 ティラノサウルス・レックスの最後のアルバムとなった「ベアード・オブ・スターズ」、かつての邦題「星のヒゲ」は、ボランがスティーヴ・ペレグリン・トゥックと別れて、ミッキー・フィンと組んだ初めてのアルバムになりました。あくまでデュオにこだわるボランです

 この相棒募集は新聞紙上でも行われました。「優しい若者」求むということだったそうで、実際に人好きのする知り合いの知り合いに決まりました。よほど、スティーヴとの確執に悩んだんでしょう。音楽家としては駆け出しながら、男前の優男が相棒となりました。

 そんなわけですから、ただでさえミッキーはスティーヴに比べると格段にミュージシャンとしての力量は落ちる上に、ボランに対して遠慮があります。となると、この作品はかなりの程度、マーク・ボランのソロ・アルバムに近いと言えます。

 この時期のスティーヴとの最後のセッションの曲が3曲ほど残されています。スティーヴはそれが収録されなかったことにショックを受けたそうです。ボランがスティーヴに印税を払いたくなかったからだという意地悪な見方もあります。トニー・ヴィスコンティの意見です。

 しかし、ボートラ収録されたその3曲を聴くと、このアルバムとは明らかに異質です。間にその曲を挟んでみると、前作からの違いがよく分かります。そんなに曲調が変わったわけではないと思っていましたが、けっこうな変化があったんです。

 その変化の一つは、アルバムとしては初めてエレキ・ギターを弾いたことです。ロックばりばりのギターというよりも、アコギに電気を通したような弾き方ですけれども、エレキはエレキです。「ベアード・オブ・スターズ」の気持ちよさそうな響きが典型です。

 そしてアルバムの最後を締めくくる「エレメンタル・チャイルド」です。いよいよTレックスが本格的に顔を出してきたともいえるギターかき鳴らし楽曲です。「電源が入った。そしてティラノサウルス・レックスは変わった」と米国では宣伝されています。

 この文句はさらに続き、「『バップダンスを踊る妖精』、マーク・ボランがエレクトリック・ギターを弾く姿をあなたは想像できるだろうか」。今となっては、エレキを弾かないマーク・ボランを想像する方が難しいですが、当時としては画期的なことだったことが分かります。

 もう一つの変化はベース・ギターです。ボランとミッキー両方にベースのクレジットがあります。こうなるとバンド・サウンドまであと一歩です。ティラノサウルス・レックスとTレックスの中間に位置する過渡期に制作されたとても楽しいアルバムです。

A Beard Of Stars / Tyrannosaurus Rex (1970 Regal Zonophone)

*2011年9月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Prelude
02. A Daye Laye
03. Woodland Bop
04. Fist Heart Mighty Dawn Dart
05. Pavilions Of Sun
06. Organ Blues
07. By The Light Of The Magical Moon
08. Wind Cheetah
09. A Beard Of Stars
10. Great Horse
11. Dragon's Ear
12. Lofty Skies
13. Dove
14. Elemental Child
(bonus)
15. Ill Starred Man (take 1)
16. Demon Queen (take 1)
17. Once Upon The Seas Of Abyssinia (take 3)
18. Blessed Wild Apple Girl (take 2)
19. Fina A Little Wood (take 1)
20. A Daye Laye (take 1)
21. Fist Heart Mighty Dawn Dart (take 2)
22. Organ Blues (take 2)
23. Wind Cheetah (take 4)
24. A Beard Of Stars (take 1)
25. Great Horse (take 1)
26. Dragons Ear (take 1 & take 2)
27. Dove (take 5)
28. Elemental Child (Pts 1 &2, take 1)
29. By The Light Of The Magical Moon (take 3)
30. Prelude (take 1)

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar, organ, bass
Micky Finn : chorus, Moroccan clay drums, tabla, bass, finger cymbals