あれも聴きたいこれも聴きたい-TRex3
 いつの世にも別れは必ず訪れます。とても悲しいことです。順調に活動を続けてきたティラノザウルス・レックスにも別れがやってきました。マーク・ボランはこのアルバムを最後にデュオの片割れスティーヴ・ペレグリン・トゥックを首にしてしまいます。

 こういう後味の悪い別れがあると、我々は女性の存在を背後に見つけたがるものです。このケースでは、どうやらボランの恋人ジューン・チャイルドがその役目を担ってくれそうです。ボランの行く末に光を見たジューンはスティーヴとの別れを助言したんだそうです。

 スティーヴは本物のヒッピーで、ドラッグもやれば、ディープな人々との付き合いも深く、一線を画しているボランにとっては一緒にやっていくのがだんだん厳しくなってきたというのが正直なところのようです。ヒッピーに対する距離の置き方の相違です。

 別れを決定的にしたのは、何よりも音楽の才能に恵まれたスティーヴが自分の曲をやりたいと言い出したことでした。ティラノサウルス・レックスはボランが引っ張っていたのでしょうが、このサウンドはスティーヴ抜きでは考え難い。スターは並び立たずだったのでしょうか。

 スティーヴは「オレンジの木の下に座って、太陽を浴びてギターを弾き、酔っぱらって、らりっていたいだけ」だと語っており、ボランと別れた後はそんな生活を10年続けます。そして31歳の若さでさくらんぼの種を喉に詰まらせて死んでしまいます。最後まで彼らしいです。合掌。

 そんな別れがあるとは微塵も思わせないほどアルバムは充実しています。前の2作に比べると、音楽的な完成度は格段に高まっています。このアルバムでは、スティーヴは普通のドラム・キットを叩いたりしていて、これまでより普通のフォーマットに近づいています。

 彼の伴奏の付け方はとても的確で、アンサンブルはとにかくまとまっています。デュオとトニー・ヴィスコンティのチームは、他の音楽を研究しながらアルバム制作にかかっていて、ある場面ではビーチ・ボーイズやフィル・スぺクターのサウンドに影響が出てきています。

 しかし、ティラノサウルス・レックスのガラス細工のような繊細な美しさは失われるどころか、ますます磨きがかかっています。これまでの作品ももちろん捨てがたいわけですが、その路線はこのアルバムをもって完成したと言ってよいでしょう。

 到達点に来てしまえば、路線転換が必要ということでのメンバー交代でもあります。しかし、この作品の直後に発表されたシングル、「キング・オブ・ザ・ランブリング・スパイアーズ」は、すでにこれまでの路線からの転換が示唆されています。

 マーク・ボランがエレクトリック・ギターを弾き、スティーヴがパンク的なドラムを叩き、ボーカル・ハーモニーをつけた重いロック作品に仕上がっているんです。歴史に「もし」は禁物ですが、デュオが続いていたら、別の形のとてつもない音楽が生まれていたような気もします。

 二人の行く末のことばかりをうじうじ考えながら聴くはめに陥ってしまいましたが、それほどこのアルバムが素晴らしいということです。この先に待っている音楽を聴いてみたいと思わせる充実ぶり。この世とは異なるあの世の音楽です。

Unicorn / Tyrannosaurus Rex (1969 Regal Zonophone)

*2011年9月24日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Chariots Of Silk
02. 'Pon A Hill
03. The Seal Of Seasons
04. The Throat Of Winter
05. Cat Black (The Wizard's Hat)
06. Stones For Avalon
07. She Was Born To Be My Unicorn
08. Like A White Star, Tangled And Far, Tulip That's What You Are
09. Warlord Of The Royal Crocodiles
10. Evenings Of Damask
11. The Sea Beasts
12. Iscariot
13. Nijinsky Hind
14. The Pilgrim's Tale
15. The Misty Coast Of Albany
16. Romany Soup
(bonus)
17. Pewler Suitor
18. King Of The Rumbling Spires
19. Do You Remember
20. 'Pon A Hill (take 1)
21. The Seal Of Seasons (take 1)
22. The Throat Of Winter (take 1)
23. She Was Born To Be My Unicorn (take 1)
24. Warlord Of The Royal Crocodiles (take 1)
25. Evenings Of Damask (take 5)
26. Iscariot (take 3)
27. The Misty Coast Of Albany (take 1)
28. Romany Soup (take 2)
29. Pewter Suitor (take 1)
30. King Of The Rumbling Spires (take 7)
31. Do You Remember (take 3)

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar, organ, Fonofiddle
Steve Peregrin Took : bongos, vocal, African talking drums, bass, piano, percussion
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John Peel : voice
Tony Visconti : piano