あれも聴きたいこれも聴きたい-MichaelJackson
 マイケル・ジャクソンは史上初のグローバルなスーパースターだと思います。エルビス・プレスリーやビートルズも大きいですが、欧米だけではなく、視野をアジアやアフリカなど真の意味での世界に広げた場合、マイケルの独り勝ちです。

 洋楽に全く冷淡だった80年代のインドでもマイケルは知られていましたし、ガーナでも唯一売っていたCDがマイケルのものでした。ダンスは世界をつなぐ。国境も民族も超えて真にグローバルなタレントを発揮したマイケルに脱帽するしかありません。

 「スリラー」はそのマイケルの金字塔です。世界で一番売れたレコードです。全体の数字は判然としませんが、6500万枚から1.1億枚と推計されています。日本でも250万枚、米国ではマイケルが亡くなった2009年に127万枚も売れたといいますから凄い。

 しかし、このアルバムはソウル好きの人には今一つ受けがよくありません。演奏しているのはTOTOだったり、ヴァン・ヘイレンだったりしますし、感心なマイケルはこのアルバム制作にあたって、ポール・マッカートニーに「曲作りを教えてくれ」と弟子入りまでしています。

 もはやソウルの枠からは逸脱しているわけです。恐らくソウルの範疇に入っていたのでは1億枚も売れないでしょう。さらに言えば、マイケルはキング・オブ・ポップではあるものの、通常のポップスの枠組みにもおさまりません。普段ポップなど聴かない人も交えての1億枚です。

 発表当時は私も次々と繰り出される新鮮なビデオ・クリップに魅了されました。特に「スリラー」は凄かった。世間はマイケルに夢中になり、まさに社会現象になりました。オレたちひょうきん族でウガンダの演じるマイケルまで強く印象に残っています。

 しかし、30年の時を経て、久しぶりにアルバムを聴いてみて、当時とは随分印象が異なって感じました。一言で言えば、これはファンタジーですね。もっとビート中心なのかと思っていましたが、全体を流れる印象はファンタジーです。

 マイケルは純粋な人です。「人々は人種を超えて、音楽で結ばれ、愛し合うことができる」と本気で信じています。実際、彼の活躍によってかなり現実化したのだと思います。しかし、世間はそういうマイケルを許さず、そこには葛藤が生じます。

 そんな葛藤から生まれた作品だとすればファンタジーになるのも当然かもしれません。しかし、ファンタジーは強いんです。世界共通ですし。ファンタジーの力を信じる全ての人々が参入してきたことが1億枚のセールスにつながったのではないかと思います。

 マイケルは、「現実逃避ではなく、より秀れたものへの飛翔としてのファンタジー」という言葉を使っています。これは良質のファンタジーに共通した特質だといえます。現実に打ちひしがれて逃避してしまうのではなく、現実の方を変えていく、そんな力強さです。

 蛇足ながら、マイケルが亡くなって以降、あんなに生前のマイケルのことを叩きまくっていたマスコミが、そんなことはまるでなかったかのように、マイケルのことを持ちあげるのは見てて不愉快でしたね。反省が欲しかったです。

Edited on 2020/7/17

Thriller / Michael Jackson (1982 Epic)