あれも聴きたいこれも聴きたい-RodStewart ロッド・ステュワートと言えば、世界で1億枚以上のレコードを売り上げたスーパースターです。大酒のみで、サッカー好き、ブロンドのお姉ちゃんたちと浮名を流すプレイボーイでしたから、話題には事欠きませんでした。

 そんな彼が93年にMTVのアンプラグドに出演した時に、英国の新聞が書いていました。「私たちはロッド・ステュワートが歌がうまいということを忘れていたことに気がついた」。このコメントには私もはっとしました。そうなんです。音楽の話題以外が多すぎて、歌手だということすら忘れかけていました。この人は実は凄い歌手なんですね。このコメントは世間の意見を代表していたようで、このアンプラグドは久々に大ヒットとなりました。

 偉大なシンガーであることは、おそらく本人も忘れていたのではないでしょうか。歌ってびっくり、「なんてうまいんだ、オレ」みたいな調子で、歌声を取り戻したロッドは構想10年、ここにスタンダードばかりを集めたアルバムを発表します。ライナーによると、もっと早く作りたがったロッドを「キャリア的に時期じゃない」とここまで引っ張ったそうです。

 結果は大成功、ちょうど引退した団塊の世代の居間にはかかせないアルバムとして全米4位の大ヒットとなりました。ロッドは調子に乗って今年完結するまで全5作を発表し、すべてトップ10ヒットとなっています。

 収められた楽曲は30年代から40年代の楽曲が中心ですから、ロッドの両親が聴いていた曲ということになります。古き良きアメリカのスタンダードとなった楽曲集ということで、ガーシュウィンやコール・ポーター、ホーギー・カーマイケルといった、往年のハリウッド・スターと共に記憶している名前がちりばめられています。

 ライナーによれば、発売レコード会社の社長クライブ・デイビスが、「フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのような音にしてほしい」と言い続けていて、ある朝、ビヴァリーヒルズ・ホテルの一室でとうとう全員でアステアのように踊りだしたと言うことです。何と楽しそうなことでしょう。

 私などは世代も違うので、そうした楽しみを共有することは難しいのですが、欧米の人々の琴線に触れたんでしょうねえ。古い時代のオリジナルもいいですが、ここまで時間が経ってしまうと甦ったカバーの方が気楽に聴けます。それにとにかく甘いけどうまいですから。さすがはロッド。

 徳永英明はこのアルバムに触発されて「ヴォーカリーズ」シリーズを作ったそうです。私としては、もうちょっと古い曲でやってほしいと思いました。誰かやってくれませんかね。

It Had To Be You... The Great American Songbook / Rod Stewart (2002)