あれも聴きたいこれも聴きたい-Friction インディーズは始めるのはさほど難しくはありませんが、続けていくのは大変です。特にインターネット以前の時代には難易度が高く、その頃に誕生したレーベルで生き残っているところは本当にまれです。ヴァージンやラフ・トレードは例外中の例外でしょう。

 日本のインディーズの鑑として期待されたPASSレコードでしたが、親会社の吉祥寺のレコード店ジョージアは倒産、店長は行方不明となり、あえなくレーベルは実体が不明瞭になってしまいました。当時はそんな事情など知らなかったですから、ただ不思議でしたが。

 PASSレコードそのものだったフリクションは、レーベルのごたごたのあおりをもろに食らいます。その結果、2年半にわたって、フリクションはアルバムを制作することがありませんでした。レック自身があまり積極的でもなかったようですが。

 そしてようやく大手ソニーから発表されたのがこのセカンド・アルバムです。空白期間はメンバーも交代させてしまいました。表面上はギタリストがツネマツマサトシからシュッツ・ハルナに交代し、茂木恵美子が加入します。また、ドラムはほとんどレックが叩いています。

 ツネマツマサトシ、通称マッチャンはリーダーでベースのレック以上に目立っていました。パンク的にカッコいいルックスのバンドにあってマッチャンは素顔がもうパンクそのものでした。ですから、彼なしのアルバムと聴いて、「フリクション、大丈夫か?」と思ったものです。

 しかも、新メンバーのシュッツ・ハルナという人は仮装パーティーでもないのに、魚のかぶりものを被ってくるような変わったノン・ミュージシャンです。いよいよ不安が募りつつも、LPを聴いてみますと...。全くの杞憂でした。

 ファーストとは方向性もかなり違いますが、どうしようもなくクールな北極サウンドはとても素敵でした。PILの名作「メタル・ボックス」の雰囲気を彷彿とさせるものがあります。バンド的な熱さは全くなく、馴れ合いは完全に排除されています。

 ところで、彼らはスタジオに「メタル・ボックス」を持ちこんで、「こういうサウンドにしたい」と言ったという話が伝わっています。あまり、エンジニアさんたちはノッテくれなかったようですが。しかし、そこまでベタだったのかとちょっと残念な話です。本当なんでしょうか?

 私は、学生時代、それこそこのアルバムを何度も聴いたものです。今でもフリクションは私のヒーローですし、このアルバムはその中でも大好きなアルバムです。ほとんどリズムだけで構成された湿り気のかけらもないサウンドは背筋が凍るようです。

 「またたくように不連続で、互いに合図を送り合っては否定を繰り返す撞着語の夥しい群れが、ひたすら理不尽に、密集する虚空の中を反響し続ける。これが、1982年9月に発表されたフリクションのセカンド・アルバム『SKIN DEEP』の「新たなる戦慄」なのだ。」。

 河添剛さんによる再発時のライナーからの引用です。フリクションは多くのライターのイマジネーションを喚起するバンドですから、彼らを巡る言辞には面白いものが多いです。それだけのカリスマ・バンドだということです。

参照:「ストリート・キングダム」地引雄一

(Edit : 2015/7/25)

Skin Deep / Friction (1982)