あれも聴きたいこれも聴きたい-PIL03 ジョン・ライドン渾身の一作です。と言いたいところですが、この頃のPILは、業界で「最も怠惰なバンド」として有名だったそうです。ギグもほとんどしないし、練習など全くしない。レコード制作も、レコード会社に促されてしぶしぶとりかかる。何が嬉しくてバンドをやっているのか分からない状態です。「バンドやろうぜ」という熱いノリは全く存在しませんでした。バンドとしては腑抜け感が漂います。

 だからこそこんな奇跡のような作品が生まれたのかもしれません。

 この作品は、リズム・トラックを先に制作して、それにキース・レヴィンとジョン・ライドンが即興をかますという手法で録音されたそうです。何と言ってもジャー・ウォーブルのぶんぶんベースが際立ちます。パンクの性急なリズムに慣れた耳には、スロー気味に流れるダブ系のリズムはとても新鮮に聴こえたものです。深く沈みこむようなベースの音は、壁に向かってスピーカーを立てて録音したと言います。今聴いても他に類をみないベースです。

 キース・レヴィンの演奏は「切り裂くような」と評されることが多いですが、意外とアンビエントなところにその真骨頂があると思います。アンビエント・ダブ。そんなジャンルがあったような、なかったような気がします。ジョン・ライドンのボーカルも抑え気味で、他の作品とは違うドスの効いた魅力があります。

 ドラムスも活躍しますが、前作で叩いていたマーティン・アトキンスはすでに脱退しており、メンバーとしては不在となっています。オーディションを開催して、やってきた人がその場で録音させられたなんていう話も伝わっています。クレジットにはありませんが、実は多くの曲でドラムを叩いているのは後にレインコーツに加入するリチャード・ドゥダンスキーだそうです。ジョン・ライドンは律義にこのアルバムの印税をリチャードに支払い続けているそうですよ。いやな奴と評判のジョンですが、こういういい話も伝わっています。

 このジャケットは2009年にバージン・レコードがオリジナルをリマスター復刻した缶入り3枚組です。LP時代には缶入りではなくて、日本で発売された普通のジャケットのものを持っていたので、小さいですが缶が手に入って嬉しいです。

 オリジナルはもともと12インチ・シングルの3枚組です。メリットは音質の良さだったんですね。この作品はとても音響に気を使った作りになっていることが分かるでしょう。全部をCD1枚に収録することは可能ですが、ここではオリジナルを復刻するという意味合い以外はまるでない3枚組になっています。気持の問題です。

 この作品は、フォーマットはロックに違いありませんが、魂はロックではなく、ロックの墓碑銘にふさわしい内容だと思います。PILの作品を並べてみても、これはかなり異質な手触りです。ボーカルが熱い「フラワーズ・オブ・ロマンス」とも違います。暑い夏に大音量で聞くとひんやりします。でも「闇」ではありません。息を潜めて何かが潜んでいる感じではありません。隅々まで明るいんです。

訂正:ドラマーのところでマーティン・アトキンスと書いてしまいましたが、ジム・ウォーカーの間違いです。すいません。なんで間違えたんだろう。

Metal Box / Public Image Ltd. (1979)