あれも聴きたいこれも聴きたい-PIL02 久しぶりにPILを聴いてみました。実は連休にベスト・アルバムを取り上げて以降、紙ジャケットでオリジナル・アルバムが再発されまして、私としてはすでに輸入盤でもっていた「メタル・ボックス」を除く全作を大人買いしたのでした。大人買いにはお金よりもエネルギーがいるので、買ってしまうと、「さあ聴こう」という気にはなかなかならないものです。「ついに買った」という事実に満足するんですね。もともとみんなLPで持っていたものが大半ですしね。

 そんなほとぼりも覚めた今日、デビュー・アルバムを聴く気になりました。台風が来るといいながら、じらされている感じが、このPILの気分にぴったりなのかもしれません。

 これはPILのデビュー盤、すなわちロンドン・パンクそのものといえるジョニー・ロットンが権利の関係で本名のジョン・ライドンに改名し、セックス・ピストルズを解散して初めて世に問うアルバムです。

 先行シングルはビデオでご紹介するタイトル曲です。これを聴いた限りでは、セックス・ピストルズからそれほど大きくは違わない感じもして、「おお、気合い入ってるな」と受け止めました。メンバーはジョンの他に3人、当時は全く無名のミュージシャンでしたが、パンク時代はデビュー時に有名な人はいませんでしたから、違和感もありませんでした。

 ところが、アルバムはかなり雰囲気が違います。まず、曲が長い。それにパンク的な3分間でまとまりのある楽曲というのはタイトル曲以外ありません。「レリジョンI」は詩の朗読ですし、最後の「フォダーストンプ」などは実にフリー・フォームな感覚です。後のアルバムで花開くジャー・ウォーブルの太っといベースや、剃刀のようなキース・レヴィンの先鋭的なギター、それにロック的な熱をまるで感じないマーティン・アトキンスのドラムスとどれをとっても感動的でした。

 もともとオリジナル・パンクの人たちは、レゲエやダブを聴いていた人が多く、ロックンロールが好きだと言う人は多数派ではなかったと思います。ジョンもレゲエやクラウト・ロックなどを聴いていた人ですよね。そうなると、パンク=ロックン・ロールの原点回帰という図式は、一体だれが言い始めたのかと思ってしまいます。

 ジョンの有名な発言、「ロックは死んだ」も、彼がピストルズのギタリストのロックンロール馬鹿的なギターにはなから満足していなかったという文脈で行なわれたりもしていますから、一般的にとらえられている精神的な意味での「ロックは死んだ」とは違うのではないかとも思えます。

 いずれにしても不世出のボーカリストであるジョン・ライドンが、マルコム・マクラレンなどの仕掛け人の手を離れて、初めて自らやりたい音楽をやりたいようにやったのが、まずはこのデビュー盤です。ここには、後のアルバムで展開される音楽の全ての萌芽がみられるようです。全体にバラエティに富んでいてとっちらかった印象もありますが、自由な精神が胸をうつ傑作だと言えるでしょう。

訂正:すいません。ドラマーはマーティン・アトキンスではなく、ジム・ウォーカーです。単純な間違いで恥ずかしいです。

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