あれも聴きたいこれも聴きたい-Hijokaidan ノイズ界のサザンオールスターズ、非常階段です。日本のノイズ音楽は世界に冠たるものですから、ノイズ界のビートルズと呼んでも差し支えないかもしれません。自称キング・オブ・ノイズ、このことに誰も異議を唱えない、そんな突出したバンドです。

 私は彼らのステージを二回見たことがあります。二回とも80年代初頭で、比較的大きなステージでの演奏でしたから、それほど過激ではありませんでした。

 渋谷で見たコンサートは、ちょうど写真週刊誌が、当時のメンバー、蝉丸嬢がステージで放尿するところを記事にした直後でしたから、私の隣には明らかにエロ目的の中年サラリーマン二人連れがいらっしゃいました。お二人は概ねつまらなさそうにしていましたが、その瞬間だけは椅子から飛び上がらんばかりに立ち上がり、「やった!やっちゃってるよ!」と大興奮。おしっこが終わったらそそくさと帰られました。満足気だったのが不思議です。結構遠いステージ上でしゃがんでおしっこしている姿を見たってねえ。

 そういうしょうもないことは強烈に覚えているのですが、音はあまり覚えていません。もう一回はタコの山崎春美主宰のイベントでしたが、こちらの方も様々な出演者の姿を断片的に覚えていますが、やはり音はあまり覚えていません。

 レコードは日野日出志の絵(余談ですがこの人の漫画は心底怖かった)をジャケットにしたLPを持っていましたが、印象に残っているのは冒頭のゲロの音ばかりです。よく聴いたことは覚えているんですけれども。

 全編ノイズですから、覚えているという感じにならないんでしょうね。むしろ、彼らのセンセーショナルなあり方があまりに強烈だったということでしょう。

 非常階段は若気の至りかと思いきや、その後も求道者のようにストイックになっていきました。この作品はその到達点とも評されるノイズ一発作品です。一曲77分間、あまり大きな変化のない純粋なノイズが詰まっています。

 ルー・リードのメタル・マシーン・ミュージックを少し思わせるところがありますが、大きな違いはやはり非常階段はバンドだということでしょう。一人じゃない。ギターと声、そして発信器やら何やらのトリオ編成で、インタープレイというのでしょうか、メンバー間の化学反応が美しいです。フリー・ジャズの即興の雰囲気もありますが、ごてごてと音を塗りこめるところはハードロック的です。

 エネルギーの塊と対峙していると言えましょうか、時々、無性に聴きたくなることがあります。ある意味で心が洗われる音楽だと言うことができましょう。

 非常階段は日本の誇りです。

Romance / 非常階段 (1990)