あれも聴きたいこれも聴きたい-KlausSchulze
 クラウス・シュルツェは、1947年生まれですが、どうやら2250年までは生きるつもりのようです。300歳まで生きるとなるとこれはもう仙人ですね。その時にはコンピュータと一体化している、と聴くと、別の形でありそうな話にも思えてきます。

 ライナーノーツでクラウスは「電子音楽の先駆者」、「エレクトロニクスの教祖」、「テクノの創始者」と紹介されています。ついでに「KS」として世界中で知られ、慕われているとも書いてありますが、それは知りませんでした。KYならぬKS、ちょっと可愛らしいです。

 この作品はシュルツェの5枚めのアルバムにして、数多い作品の中でも最も人気の高い作品の一つです。シュルツェの相棒クラウス・ミューラーによるとこの作品がヴァージン・レコードから初めて全世界に向けて発売されたことが一因だと言います。

 続くアルバムもなかなか世界発売されず、結局この作品が「長い間世界規模の市場で、正式に安定した供給がなされていたクラウス・シュルツェの唯一のアルバムだった」ということです。他にもいい作品はあるのに、とはシュルツェ・ファンのぼやきポイントです。

 とは言え、もちろんこの作品は充実しています。アルバムはリヒャルト・ワーグナーに捧げられています。音にしか興味がないシュルツェが初めてコンセプトを導入した作品だと言ってよいのではないでしょうか。それだけコミュニケーションがとりやすい。

 全2曲の長い曲で構成されているところもワーグナーっぽいです。風を模したシンセ音を効果的につかいながら、シークエンサーのリズム音を背景に電子音がドラマチックな盛り上がりをみせてくれます。静かに横になって聴いていると幸せになれること請け合いです。

 今、こうした音楽を作るのは技術的には難しくないと思いますけれども、当時の電子楽器や録音機材では大いなる苦労があった模様です。この作品はクラウスの住居ともなっていた床屋を改造した自宅スタジオで録音されています。

 ベッドもシンセも何もかも同じ部屋にセットアップし、グラスウールと布を張りめぐらせて防音効果を加えたとのことです。もちろん本物のスタジオとは程遠いですし、当時のシュルツェの機材はまだまだ貧弱でした。

 そのため、「必然的に録音はリアルタイムとなり演奏しながらミキシングもしなくてはいけなかった」そうです。何と驚くべきことにスタジオでのライブ録音です。忙しく立ち働く大柄なシュルツェの姿を想像しながら聴くのも一興です。

 そんな苦労の末に出来上がった作品はこれまでの作品よりもロマンチックに磨きがかかっていて、ロックというよりもクラシック的な感性にダイレクトに響いてきます。なんといってもワーグナーです。ロマンが溢れる見事な構成です。

 この作品はフランスで国際レコード大賞を受賞しました。受賞作品となると、全国各地の図書館が揃えなければならないと思うそうで、そのために突然2万から3万枚の売り上げがあったそうです。苦労は報われ、シュルツェの懐にもぽっと明かりが灯りました。

Rewritten on 2018/2/18

Timewind / Klaus Schulze (1975 Brain)