あれも聴きたいこれも聴きたい-Malavoi
 1988年にマラヴォワの「ジュ・ウヴェ」を手に入れて以来、この作品を聴かずに過ごした夏は一度もありません。当時に比べると地球温暖化の影響か、ここ日本でも暑さがどんどん増してきています。暑い日が続けば続くほどマラヴォワが恋しくなります。

 アンビエントやチルアウトなども涼しくなる効果はあると思いますが、そちらはいわばエアコンの効果です。それに対してマラヴォワは団扇の趣き、葦簀を通した日差しと柔らかな風が心地よいといった風情の節電型納涼音楽だといってよいでしょう。

 マラヴォワは、カリブ海に浮かぶマルティニーク諸島に誕生した世界一のアマチュア・バンドです。メンバーの大半が公務員だったといいます。公務員はどこの国でも兼業禁止でしょうから、正真正銘のアマチュアです。公務で音楽しているわけでもありませんし。

 マラヴォワの結成は1970年ごろで、今でも活動を続けています。半世紀に及ぶキャリアですから、中心メンバーが亡くなってしまうなど、いろいろな事件に遭遇していますけれども、その都度危機を乗り越え、息の長い活動を続けています。

 おそらくアマチュアゆえに余計なストレスにさらされていないということではないでしょうか。マラヴォワは本来楽しいはずの音楽活動がストレスとなるショウビズ界とは無縁そうにみえます。そのことは聴き手にも十分に伝わりますから、こちらもリラックスできます。

 本作品は、ズークというマルティニークのサウンドがフランス本国で人気を博したために、当地出身のマラヴォワにも光があたり、そのおかげで日本でもメジャー・レーベルから発売されて、話題となりました。ワールド・ミュージック・ブームのおかげです。

 本家のズークは電気バリバリですけれども、本作品で聴かれるマラヴォワのサウンドは、バイオリン4本を擁する、とてもアコースティックでエレガントなものです。ボーカルも爽やかで、美しいサウンドが暑さを追い払ってくれます。カリブ海の風が吹いてきます。

 カリブ海と言えば、片方にゾンビがありまして、ぐしゃぐしゃねとねとした世界もあるのですが、こちらのフランス文化圏の穏やかな青い海文化はその対極にあるカリブ海文化です。パームワインを飲みながら、太陽の下でのんびり聴いていたい音楽です。

 マラヴォワはここでは12人の大所帯でとても流麗なサウンドを奏でます。リズムはタイトでしかも上品、灰汁を抜いたラテンの風情で、メロディーにも妙な癖がなくて耳に心地よいです。さまざまなメンバーがとるボーカルもそれぞれ味わいがあります。

 伝統音楽主義者の間では、ソフィスティケートされすぎとの批判もあるようです。一方、中村とうよう氏はライナーにて「ついにマラヴォワはカリブ海の底に眠っていた19世紀の地層を掘り当てたな、という感慨を覚える」と、伝統のその先を行くと高く評価しています。

 いずれの立場に立つにせよ、聴き手としては当時のワールド・ミュージック・ブームが連れてきてくれた極上サウンドに身を委ねるのみです。これほどに身も心も軽くしてくれる音楽はそうあるものではありません。マラヴォワに出会った幸せにしみじみ浸るのみです。

Je Ouvé / Malavoi (1988 Flarenasch)

*2011年8月18日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Jou Ouvé
02. Philomène
03. Cyclone
04. Demarrage
05. Belle De Nuit
06. Albè
07. Bossu À
08. Legend
09. Apre La Pli
10. La Case A Lucie
11. Bleu Alizée

Personnel:
Mano Césaire, Christian de Negri, Jean-Paul Soïme, Patrick Hartwick : violin
Paulo Rosine : piano, synthesizer, vocal
Jean-Marc Albicy : bass
Denis Datin : drums, percussion
Nicol Bernard : percussions, programming
Pipo Gertrude : vocal
Tony Chasseur, Nadja N'Guyen, Sonia Pinel Fereol : chorus
Denis Van Hecke : cello
Bobby Rangell : flute, sax