あれも聴きたいこれも聴きたい-TachibanaHajime 私にとって立花ハジメはセンスのいい人の定義のような人です。

 センスのいい人っていうのは一体何なんでしょうね。簡単なことでも真似ができないのは何故なんでしょう。絵や音楽ならば、技術の問題で真似できないのは分かりますが、たとえばユニクロでTシャツとジーンズを買ってくる、というだけのことでも、なぜかセンスのいい人が選んだものと私が選ぶものは違ってしまいます。人はどうあれ、自分の方がいいと思えればいいのですが、相手の方が良いことが分かってしまう程度には審美眼があるところが悲しいです。

 宮沢章夫は80年代地下文化論を語る中で、ピテカン的なるものをオタクの対極においていました。ピテカンというのは80年代に原宿に出来た日本初のクラブ、ピテカントロプス・エレクトスのことで、ハイセンスの殿堂のようなところだと認識されていました。その関連人脈の中でもひときわかっこ良かったのがこの立花ハジメです。この人はグラフィック・デザイナーが本職で、ノン・ミュージシャンの多い、とてつもなくおしゃれなバンド、プラスチックスが音楽デビューでした。解散後はソロで作品を発表し続け、これが三枚目となります。

 プラスチックスではギターを、ソロになってからはサックスを、加えてアルプス1号などの自作楽器を演奏しています。命名のセンスが明和電機的ですね。南極じゃなくてアルプス。ヒマラヤだとしょうもない名前な感じがしますが、さすがは立花ハジメ、命名センスもいいです。

 音の方はテクノ・ポップに回帰したと言われています。これと次作の「太陽さん」あたりで、「ハジメはYMOを超えた」と細野晴臣が発言しているそうです。しかし、回帰っていっても、プラスチックス時代とは随分違いますし、どこに帰ったのかと突っ込みたいところですが、それまでのソロ作がサックスをばりばり吹いていたので、それに比べれば昔に近いということなのでしょう。

 生ドラムを始め、楽器も入ってはいますが、コンピュータの活躍が目立ちます。強烈なビートが荒削りのまま放り出されていて、とても格好いいです。当時のコンピュータですから、ネアンデルタール人の時代くらいのものなのでしょう。ぺらぺらです。それが中心ですから、言ってみれば、「途中まで作っといたよ、あとよろしく」ってな感じのデモ音源のようにも聴こえます。

 それにビートの感覚がハウス以降のものとは決定的に違うような気がします。テクノと言えばテクノではありますが、クラブ系の音楽とは随分とカテゴリーが違うのではないでしょうか。踊りにくそうだし。

 要するに今ならこういう音楽は生まれないだろうなと思います。

 それで面白くないのかと言えば、そんなことはなく、そこがセンスのいい人の真骨頂なのでしょうが、とにかくカッコいいんです。時代を超えて今でもそう。とても凛々しいです。ため息がでますね。

Mr. Techie & Miss Kipple / Hajime Tachibana (1984)