あれも聴きたいこれも聴きたい-GetzGilberto 世間はすっかり夏でしたね。入院していると季節感が皆無となります。幸い退院してから過ごしやすい日々が続いていますが、いよいよ明日から暑くなりそうです。

 夏と言えば、ボサノヴァです。ボサノヴァといえば、このスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトのこの作品でしょう。アメリカでのボサノヴァ・ブームを決定付けた名盤ですね。いろいろ説はありますが、全米2位、96週間にわたってチャートインという大ヒットを記録しました。シングル・カットされた「イパネマの娘」は日本でもヒットしました。

 ボサノヴァは西海岸のジャズに影響を受けて生まれたサンバの「ニュー・ウェーブ」です。それがアメリカに逆輸入されて、スタン・ゲッツやチャーリー・バードなどのジャズ・ミュージシャンがボサノヴァを演奏するようになり、その勢いでブラジルのミュージシャンと共演して出来たのがこの奇跡のようなアルバムです。

 もう一つ奇跡といえば、本作の中心人物ジョアン・ジルベルトの奥さんだったアストラッド・ジルベルトのボーカル・デビューです。ビデオを見ると一目瞭然ですが、彼女は家で歌っていたとはいえ、素人です。そんな彼女の初めてのレコーディングがこのアルバムの「イパネマの娘」でした。そしてシングル・カットは、ポルトガル語で歌うジョアンの部分をカットして、アストラッドの英語の部分だけというものです。それが大ヒットし、彼女は以後、キャリアを重ねることになります。でれでれのお惚気から生まれた奇跡でした。

 タイトルとは裏腹に、音楽的なイニシアチブはピアノのアントニオ・カルロス・ジョビンがとっているようです。確かに目立つのはスタン・ゲッツのサックス・ソロとジョアンのボーカルですが、むしろ、新鮮なのは音を絞り気味にしたピアノを含むリズム・セクションです。これが気持ちいいんですよね。何ともいえない艶のあるリズムです。よく聴くと芸も細かいし。ボサノヴァかくあるべし。

 スタン・ゲッツのプレイも素晴らしいものです。聴く人ごとに、「あっ、このフレーズ」という一押しがあることでしょう。気持よさそうに吹いていますねえ。ちょっと録音がなんですが。

 ただ、本作はスタン・ゲッツが入っているので、原理主義的な人は、これはボサノヴァではないとおっしゃいます。まあどっちでもいい話ですけどね。

 夏にぴったり、納涼の一枚です。

Getz/Gilberto / Stan Getz, Joao Gilberto featuring Antonio Carlos Jobim (1964)