あれも聴きたいこれも聴きたい-BobDylan
 ボブ・ディランは1974年1月から2月にかけて8年ぶりとなる全米ツアーを敢行しました。40回のコンサートに1200万枚ものチケット購入申し込みが殺到したといいますから、運営側はディラン人気を見誤っていたとしか言いようがありません。想像をはるかに超える人気でした。

 このツアーを一緒にまわったのはザ・バンドです。8年前はバック・バンドとしてザ・ホークスの名でライヴを支えたザ・バンドでしたが、8年のうちに米国を代表するロック・バンドとなり、ライヴではディラン&ザ・バンドとして完全にディランと並んで表記されるようになりました。

 ザ・バンドは1973年7月に行われ、60万人の観客を動員したワトキンス・グレンでの伝説のコンサートにも出演しており、ディランにその興奮を熱く語ったことがディランのツアー再開のきっかけの一つにもなりました。まさにトップ・バンドです。

 ともあれ、本作品はその全米ツアーを記録した2枚組ライヴ・アルバム「偉大なる復活」です。名義はボブ・ディラン&ザ・バンドで、意外なことに両者にとってこれが初めてのライヴ・アルバムです。人気ツアーですから当然のように全米3位にまで上がるヒットになっています。

 しかし、この人気については留保が必要です。空白の8年の間に洋楽を聴くようになった私にとってディランはビートルズと同じくスーパースターだけれどもすでに終わってしまった人という印象でした。したがってツアー再開はビートルズ再結成のような気分となります。

 ディランは8年間に単発のステージには立っていますし、映画にも出演、アルバムも何枚も出しています。本人は現役バリバリのつもりです。しかし、アメリカ人の多くも往年のスーパースター扱いだったのではないでしょうか。そこにスターとなったザ・バンドが並ぶと完璧です。

 後にディランはこのツアーを酷評していて、ディランとザ・バンドそれぞれがその役割を演じていたにすぎない心のこもらないツアーだったと語っています。エネルギーに溢れた作品だと言われるのが殊の外、お嫌いな様子です。違和感を感じていたのでしょう。

 アルバムのA面とD面はザ・バンドがバックを務めてディランが歌うセット、B面はザ・バンド単独のセット、C面は半分がディランのアコースティック・セット、残りの半分が再びザ・バンド単独のセットになっています。それぞれがその役割を果たした形になっていますかね。

 選曲もほとんどが過去の名曲です。観客の要望に応えた選曲ですけれども、ディランはそれぞれの楽曲をオリジナルに比べて力強く歌っています。本人は嫌がるかもしれませんが、エネルギーに満ち溢れて、現役ばりばりであることを宣言しているようです。

 一方、ザ・バンドはその順調な活動に黄色信号がともっていた時期でしたから、ツアーの成功は大きな意味がありました。デビュー前から活動をともにしていたディランとのリユニオンということで、初心に帰ったルーズでいながらタイトでコクのある深い演奏を繰り広げています。

 それぞれにさまざまな思いを残したツアーであったといえます。ディランにとっては「偉大なる復活」は文句なしの名盤「血の轍」を産み落とすために通らなければならなかった作品だと言えるのではないでしょうか。前に進むための復活なのでした。

Before The Flood / Bob Dylan & The Band (1974 Asylum)

*2011年7月30日の記事を書き直しました。



Songs :
(disc one)
01. Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine) 我が道を行く
02. Lay Lady Lay
03. Rainy Day Women #12&35 雨の日の女
04. Knokin' On Heaven's Door 天国への扉
05. It Ain't Me Babe 悲しきベイブ
06. Ballad Of A Thin Man やせっぽちのバラッド
07. Up On Cripple Creek
08. I Shall Be Released
09. Endless Highway
10. The Night They Drove Old Dixie Down
11. Stage Fright
(disc two)
01. Don't Think Twice, It's All Right くよくよするなよ
02. Just Like A Woman 女の如く
03. It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
04. The Shape I'm In
05. When You Awake
06. The Weight
07. All Along The Watchtower 見張塔からずっと
08. Highway 61 Revisited 追憶のハイウェイ61
09. Like A Rolling Stone
10. Blowin' In The Wind 風に吹かれて

Personnel:
Bob Dylan : vocal, guitar, harmonica, piano
Robbie Robertson : guitar, chorus
Garth Hudson : organ, piano, clavinet
Levon Helm : vocal, drums
Richard Manuel : vocal, piano, organ, drums
Rick Danko : vocal, bass