あれも聴きたいこれも聴きたい-TajMahal 初めてだと思いますが、今回はDVDです。最近、結構重量級の病に伏せっておりまして、あまり目鼻立ちのはっきりした音楽を体が受け付けません。そういう時にこのタージ・マハル旅行団の音楽は心に沁みます。

 タージ・マハル旅行団は1969年に結成された日本の即興演奏集団です。緩やかな集団のようで、私は現代音楽の世界で随分有名な小杉武久さん以外はほとんど知りません。始めも終わりもない音楽、演奏中に奏者も出入り自由、と純粋な即興です。電子音や和楽器、自作の楽器、声などありとあらゆる音を使って至福の音を響かせます。りズミックというよりハーモニック。ボワーンとした音が続きます。

 このDVDはそんな彼らがヨーロッパの芸術祭に招かれたついでに、ヨーロッパ中を旅して、さらにトルコ~イラン~アフガニスタン~インドへと旅をするドキュメンタリーです。終点はもちろん我らがタージ・マハールです。冒頭と最後には真鶴岬での映像が使用され、円環構造が際立つことになりました。

 何ということもない旅の記録ですが、さすがに時代を感じます。テヘランでは平気でミニスカートの女の子が街を闊歩していますし、カブールはもちろん平和そのものです。ホメイニ革命前だし、ソ連のアフガン侵攻前なんですね。その代わり第三次印パ戦争の余波のために、パキスタンから陸路ではインドに入れない時代でした。

 こういう人たちの旅行記ですから、音が命です。波の音、車の音、街の音、全てが彼らの演奏とシンクロしているようです。語りの部分もいいアクセントになっていますが、ドン・チェリーのインタビューは少し長いと思いました。

 制作の中心になったのは日本の効果音の神様、大野松雄さんです。さすがに作品の隅々にまで気が配られていて、張り詰めたような弛んだような何とも言えない幸せな時間を演出しています。

 淡淡とした映像は一時提唱された環境テレビのようでもあります。小杉さんが一緒に活動するナム・ジュン・パイクを思わせたりもします。イーノのアンビエントを待つまでもなく、特別な時間を生活に演出するこんな素晴らしい作品が日本で生まれたことを喜びたいと思います。

on "Tour" / Taj Mahal Travellers (1972)