あれも聴きたいこれも聴きたい-MatsutoyaYumi
 インドには、「アガスティアの葉」というものがあります。南インドの聖人アガスティアが人々それぞれの未来を予言して葉っぱに書きとめたものです。世界中の人々の葉っぱが一人一枚存在することになっています。その葉っぱにその人の一生が事細かに書かれています。

 デリーにもアガスティアの館がありまして、実際に体験した日本の方に聴いてみますと、自分の両親の名前を言いあてられて驚いたなどとおっしゃっていました。結構社会的地位の高い方の中にも信じている人もいますし、いんちきだと言う人もいます。

 この話の真偽のほどはともかく、私はこの話を聴いて、ユーミンを思い出しました。日本人限定、世代限定、青春限定ですが、ユーミンの歌は「アガスティアの葉」のようなものでしょう。ユーミンの館というものがもしあればどうでしょう。

 占いDJが相談客にいくつかの質問をします。そうして、おもむろにユーミンの何百曲とある歌の中から、一曲だけ選んで「あなたの歌はこれです」とかけます。そうすると、お客は「私のことが歌ってある!!!」と驚く、というわけです。

 ユーミンの歌には日本の青春が網羅されています。「えっ、どこで見てたの?」と驚いた人もいるでしょう。もちろん、私の歌もあります。本当にあの時、近くのテーブルからユーミンがこちらを窺っていたのかと思ったほどです。

 しかし、話はそう簡単なものではありません。みんなの青春の思い出を歌ってくれて、「ああそうだったなあ」としみじみするばかりではありません。恋人との関係に悩み苦しんでいる時に、ユーミンの歌を聴いて、自分の状況を解釈して、気持を整理した人も多かったでしょう。

 「ああ、そうか。私は本当は彼を愛していなかったんだ」と気づいたり、「そうだ、彼と別れて新しくやり直した方がいいんだ」と決心したり、ユーミンが余計なことを歌ったばかりにふられたという人も星の数ほどいるのではないでしょうか。

 ユーミンが街のカフェやレストランで若者風俗を取材していたのは周知の事実です。揶揄気味に語られることもあるお話ですが、私は大変立派だと思います。日本人の青春の神様として絶え間ない努力をしていたということですから。

 それは彼女が歌を対象化していたということでしょうし、決してべたべたしない絶妙のバランスにつながっているのだと思います。歌詞で描かれる情景との間に程よい距離感があるんです。決して中に没入するわけではない。

 実は、このCDは私にとって松任谷由実のものとしては2枚目です。ベスト・アルバムが何種類か出ている中で好きな曲が入っているものを選びました。インドに単身赴任する際に買って持って行きました。ユーミンくらい持っていないと日本人としてどうかと思いまして。

 ただ、実際にはあまり縁があるわけではありません。30年前の高校時代の同窓会がありまして、その写真をDVDにして送ってもらいましたが、そのBGMにユーミンが鳴っていました。しみじみといいなあと思いました。まさに日本人の青春そのものです。

Edited on 2018/5/13

Neue Musik / Yumi Matsutoya (1998 Express)