あれも聴きたいこれも聴きたい-CinematicOrchestra
 音楽の分類の仕方には、ロックやジャズと並んで、「サウンドトラック」というものがあります。ロックやジャズが音楽の内容に着目した分類なのに対して、サウンドトラック=映画音楽は、映画に使われる音楽ということですから、いわば機能による分類です。

 そうすると、縦軸、横軸の関係になるわけですから、本来、両者は並ぶのはおかしいわけですが、「映画音楽」という分類は内容分類としても厳然として機能しています。ジャズ、ロック、クラシックとさまざまな音楽が使われるのにサントラと聞くと納得します。面白いものです。

 人間は視覚優位の存在ですから、音楽だけ聴いていると目のやり場に困ってしまいます。音楽が脳内に視覚的なイメージを喚起すればそれでよいのでしょうが、なかなかそうもいきません。暇を持て余す視覚を用いて、テレビを見たり、本を読みながら聴いてしまったりします。

 そうすると、音楽に大変失礼な気もしてきます。しかし、視覚的要素と寄り添って出来ている映画音楽は、最初から映画を見ながら聴いてもいいわけですから、随分と気が楽なものです。すると音楽に集中してしまったりするところがまた面白いのですが。

 一方、特に歌入りの曲だと、どのシーンで流れていたのかなんて意外と覚えていないものです。大たい、「そうそうエンド・ロールで流れていた」なんていうことになります。実はそれほど視覚的なイメージと密着しているわけではないのでしょう。

 そういうわけですから、映画音楽を単なる映像に寄り添った音楽ととらえては物事を見誤る気がします。MVと映画はやはり全く違います。映画は総合芸術ですから、映像が主で音楽が従ということではなく、映画音楽は映画全体の時空に組み込まれているものなのでしょう。

 このシネマティック・オーケストラは、イギリスのジェイソン・スウィンスコーのプロジェクトで、その名の通り、とても映画音楽的です。もちろん、映画に使われたわけではありませんから、いわゆるサントラではありません。

 音はもわーっとした古いジャズの雰囲気とクラブ・ミュージックとの混淆です。生楽器の演奏が中心で、いわゆるエレクトロニクスの使用は控えめです。ゆったり反復するリズムに生楽器がノスタルジーを漂わせつつも新鮮なメロディーを奏でます。そして楽曲の構成力がすごい。

 スウィンスコーは、映画を演出するように音楽をプロデュースしています。各シーンは折り重なって驚くべき結末になだれ込んでいくようです。シナリオを持ち、空間を重視する手法は映画そのものです。聴き終わった後の何とも言えない気持は映画を見た後のものです。

 彼はクラブで音楽に合わせて映画を上映するパーティーを開いているそうです。そこでは「トロン」や「マトリックス」などは分かるとして、「卒業」や「ビッグ・ウェンズデー」なども使われるそうです。音が喚起する映像とどう折り合いがつくのか試してみたいものです。

 「サウンドトラックは重要だが、しかし紛らわしく映画と結びつける必要はない。すぐれたサウンドトラックは大げさにする必要はないんだ。最高のサウンドトラックはエレガントなものさ」とジェイソンは語ります。最高にエレガントな作品です。

Edited on 2018/4/22

Motion / The Cinematic Orchestra (1999 Ninja Tune)