あれも聴きたいこれも聴きたい-Panta パンタはステージネームで本名は中村治雄さん。ヴァンゲリスは本名の略称でしたが、パンタの由来は何なんでしょう。ちょっと調べてみただけでは分かりませんでした。

 70年代日本のロックの最高傑作とも称される一枚ですが、私は同時代にはほとんど聴きませんでした。ちょうどパンクを聴いていた時期なので、若い人の音楽ばかり聴いていたというのはあるのですが、それだけではないと思います。

 当時は、60年代から70年代初頭にかけての政治の季節の記憶が社会にまだ生々しく、そうしたものをできるだけ排除しようと言う空気が漂っていました。連合赤軍事件の衝撃が大きかったですね。大学にも過激派の残党がいましたし、三里塚闘争はまだ続いていましたが、若者も含めて社会的な応援は全く得られませんでした。

 そうした動きと密接につながっていると目されて、パンタのいた頭脳警察のLPは発禁になっていましたが、当時の我々はそれをカッコいいと思うこともありませんでした。思想教育の成果でしょうか。その中でパンタのアルバムの位置づけは微妙なものであったのだと思います。

 というわけで、あまり知らなかったんですが、何なんでしょう、この濃密なグルーブは。素晴らしいロック・アルバムやないですか。不必要に熱くシャウトすることもないパンタのボーカルは、抑えた凄みがあります。パンタ以外はほとんど無名のミュージシャンだったらしいですが、各楽器の音の分離もよく、素晴らしい演奏です。レゲエというかアフロというか、リズムに大いに工夫があるのですが、どこかに日本的なノリを感じます。そこが独特です。

 マラッカ海峡を題材にしたゆるやかなコンセプト・アルバムです。オイル・ショックによってマラッカ海峡の知名度が抜群にあがっていた時代です。ホルムズ海峡よりも人気がありました。熱風は感じますが、乾いているので、湿ったアジアの感じが希薄なのは残念です。しかし、無国籍風の情緒がいい味を出しています。

 封入された歌詞カードの写真は南インドの有名なクリシュナのバターボールの写真です。どういう意味があるのでしょう。象が押しても転ばない力強い音楽という意味でしょうか。

 いろいろな思いが交錯しますが、今となっては素直にこの音楽を愛でたいと思います。素晴らしい。

マラッカ / PANTA & HAL (1979)