あれも聴きたいこれも聴きたい-SteveVai スティーヴ・ヴァイの2005年の傑作です。

 この人はフランク・ザッパのギター・ソロを全て採譜して、それを持ちこんでザッパに見染められたというエピソードを持っている人です。さすがはバークリー音楽学院出身というその技量に感心するわけですが、何か妙な気になります。まずロックに採譜は似合わないという偏見が私に根強いうえに、なんたって対象は即興演奏ですよ。採譜してみようという気になるところが妙です。

 スティーヴ・ヴァイはギターの神様の一人です。ザッパのバンドの頃はいつも「スタント・ギター」とクレジットされていました。超絶技巧の人なんですね。変態ギタリストとも言われそうですが、そのギターに対する姿勢はギターと一体化してしまったという類のギター小僧ではなくて、あくまでギターを探求しつくすタイプです。前者は採譜しないタイプじゃないかと思います。我らがチャーやジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックスは即興の採譜なんて考えてもみなさそうじゃないですか。

 一方、後者の場合は、往々にしてロック・オペラ的なコンセプト・アルバムを制作しようという発想になりやすいのではないかと思います。採譜しそうな高中正義やピート・タウンジェントはコンセプト・アルバムを制作しています。偏見ですかね。それにオーケストラとの共演。ご紹介するビデオはオーケストラとの共演ですが、彼の本質をよく表していると思います。

 この作品は三部作の最初ということで、ストーリーがきっちりと印刷されています。それぞれの楽曲はかなりバラエティーに富んでいるのですが、コンセプトに従おうという強烈な意志を感じます。そのあたりが好き嫌いの分かれるところでしょうね。

 ところで、インドで私が住んでいたところがそういう名前だったので、たまたま知っているのですが、このアルバムの主人公の名前であるパンポッシュとはカシミール語で蓮のことです。スリーブに注はないのですが、このアルバムには「ロータス・フィート」という曲があるので、おそらく意識されていたと思います。この「ロータス・フィート」がグラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタルにノミネートされています。ねっとりした名曲です。

 彼のキャリアはいろいろあって結構ややこしく、これは三部作の第一作といいながら次の二つは出ていないようです。飽きっぽいのでしょうか。ソロ・アルバムをもっと出してほしいのですが。

Real Illusions: Reflections / Steve Vai (2005)