あれも聴きたいこれも聴きたい-AKB
 AKB48のヨーロッパ公演での異国人の反応についてAKB監督の秋元康が語るところによると、「最初はあまりのへたくそさに唖然となるけれども、その懸命さに次第に惹きこまれていく」ということです。その異国人の反応には同意いたします。

 AKBは歌手というよりレビューです。あくまで歌が中心のモーニング娘。のハロプロとは大きく違います。そこは放送作家の秋元康と音楽家のつんく♂の違いでしょう。違う角度から言えば、「ウォーター・ボーイズ」とか「スウィング・ガールズ」と同じ種類です。

 同世代以上の人は分かってくれるのではないかと期待しますが、SKD(松竹歌劇団)に近いものを感じます。私はSKDのステージを一度だけ見たことがあります。見る前は小馬鹿にしていたのですが、見終わる頃には心底感動している自分を発見したことを覚えています。

 AKBのステージもテレビで見ただけですけれども、かなり面白いと思いました。SKDの芸域にはもちろんまるで達していないのですが、その分若い。若さだけは有り余るくらいあるので、勢いだけでも押していけます。

 レビューですから、CDのみで再現するというのはなかなか難しいです。しかし、初のオリジナル・アルバムとなるこの作品は、曲の並びが見事に構成されていて、十分にその魅力を堪能することができます。

 オープニングに続いて各チームが歌い、その後、いろんなメンバーの組み合わせが続きます。研究生が一曲歌った後、売り出し中のチームBのノヴェルティな歌をはさんで、怒涛のヒット曲ラッシュ、最後に全員で静かに歌って締める。見事なショーの構成です。

 音楽的にはどうかと申しますと、サウンドにもメロディーにも冒険は一切ありません。予定調和的です。大勢で一生懸命歌っていて、その圧力で突っ走ることが信条ですから、サウンドの冒険などは全く必要ないということでしょう。

 一つだけ気になったのは「チャンスの順番」という曲です。リズムと歌唱の不思議なバランスが面白いです。今の編集技術からすれば変な話ですけれども、これが狙ったものだったとしたら、それはそれで凄いことです。

 話は変わりますが、あずまきよひこの大ヒット漫画「あずまんが大王」に木村先生というキャラクターが出てきます。どうして高校教師になったか聴かれた先生は、「女子高生とか好きだから!」と答えて、女子はどん引き、男子は率直さに感動するというシーンがあります。

 秋元康はこの木村先生を思わせます。 この人は純粋に女子高生が好きなんでしょう。そして「青春」を強く信じているんだと思います。今や社会現象となり、彼のプロデュース手法にビジネス的な注目が集まりますが、そこのところを忘れてはいけません。

 いずれにせよ、自分の娘よりも若い女の子たちが大人数で一生懸命歌っている姿はとてもまぶしいものがあります。売れるに従って、匿名集団ではなく、一人一人の個性が際立ってきました。スターを輩出しつつも、レビューを極めていってほしいものです。

Rewritten on 2018/3/11

ここにいたこと / AKB48 (2011 キング)