あれも聴きたいこれも聴きたい-BeachBoys
 これは大傑作です。ロック史上に燦然と輝く大名盤です。オールタイム・ベスト・アルバムの企画があると必ず上位に選ばれる作品です。私としても、それだけの内容だと思いますし、異論は全くありません。

 しかし、奇妙な思いにかられます。このアルバムは、少なくとも1970年代にはほとんど無視されていました。日本盤も廃盤になって久しかったはずです。1970年代に入ってから洋楽を聴き始めた私は、この作品の存在を長らく知りませんでした。

 当時、洋楽雑誌に登場したこともほとんどありませんでした。1960年代を代表する名盤の数々、たとえばビートルズ、ボブ・ディラン、ストーンズ、クリムゾン、ピンク・フロイドの作品などは、当時から名盤として何度も何度も雑誌に取り上げられていました。

 まずは歴史を学べとばかりにロックのヒーローたちのことが提示されていたわけです。しかし、それにもかかわらず、このアルバムのことは知らなかった。当時、ビーチボーイズといえば「サーフィンUSA」でした。今でもそうかもしれませんが。

 それが、ブライアン・ウィルソンのソロ・アルバムが発表された1988年に、山下達郎の愛に溢れていてかつとても理性的な素晴らしいライナーノーツを付して本作品がCD化された途端に、私にとっては唐突に「大傑作」として目の前に現れました。

 それまでのことはなかったかのように、さも昔からずっとそうであったかのように、突然、「大傑作」であるとして喧伝されるようになったのでした。雑誌にも何度も特集が組まれるようになりました。狐につままれたような気分だったことを覚えています。

 前置きが長くなりましたが、この作品はとても不思議な作品です。もしもサウンドそのものに検閲制度があったとして、私が検閲官だったとしたら、この作品を「ジョンの魂」と並んでR18指定にします。「ポップなのに」と反論されたとしても、R15がせいぜいでしょう。赤裸々すぎ。

 間違ってPG12としてしまって、子供と一緒に聴く羽目になるのだけは避けたいです。居心地が悪い。ポール・マッカートニーは「このアルバムを聴かないと音楽教育を受けたことにはならない」と、自分の子供に買い与えたそうですから、スーパースターは図太いです。

 この作品はビーチボーイズのアルバムとなっていますが、ほとんどリーダーのブライアン・ウィルソンのソロ・アルバムだと言われています。そんなこと言われなくても、このパーソナルなタッチはそれ以外の可能性を全く排除していると思います。

 ともかくサウンドそのものがとても内省的でどきどきさせられます。素っ裸でブライアンが立っているようなそんな感じです。録音技術の粋を集めた作品でもあるので、音の感触がとても生々しい。とても不思議なサウンドです。

 似ているサウンドを思い浮かべることができません。雲か霞がかかったような雰囲気の中から、妙に一つ一つの楽器の音が際立って聴こえてきます。かそけき音が凛と力強く立ち上がっていて、パーカッションの音色などぞくぞくします。さすがは大傑作です。

Edited on 2018/3/31

Pet Sounds / The Beach Boys (1966 Capitol)