あれも聴きたいこれも聴きたい-SpandauBallet
  1970年代終わりから1980年代前半にかけて、イギリスではニュー・ロマンティクスと言われる一群の音楽がはやりました。日本で言うところのビジュアル系です。派手な格好をした一連のバンドがシンセサイザーを多用するエレクトロ・ポップな楽曲を演奏しました。

 元祖はヴィザージュと言われていますが、人気を博したのはカルチャー・クラブやデュラン・デュランなどで、意外なことにアメリカでも大いに受けて、第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンと言われる社会現象のかなりの部分はこのニュー・ロマンティクスによっています。

 このスパンダー・バレエもその一味で、イギリスのみならず世界各国で人気を博しました。このアルバムのタイトル・トラックは英国をはじめ多くの国で一位となり、アメリカでもトップ10ヒットとなりました。80年代洋楽ビデオ特集にはこのPVがよくかかります。

 しかし、何か変なバンドです。私は彼らのデビュー当時の曲「燃えるマッスル」を聴いた瞬間から変なバンドだという思い込みが消えません。邦題も邦題ですが、ロシア民謡のようなそのコーラスがとにかく変でした。百姓一揆のようでもありました。

 彼らはデビューするや、その変なマッスルで一応の成功を収めました。しかし、後が続かず頭打ち傾向が鮮明になってきました。そこで、ボーカルのトニー・ハドリーをミニ・フランク・シナトラとして売り出す路線変更を試みます。

 その成果がこの作品で、その狙いは見事に成功を収めました。今作はアメリカでも大いに受けました。まさに金字塔的な作品ですけれども、やっぱり何か変です。大たい、ミニ・フランク・シナトラという発想からして同時代的ではありません。

 その微妙なずれ具合は「トゥルー」のPVを見れば一目瞭然です。ロング・コートのジャケットで歌うトニーはミニ・シナトラというよりも、ホテルのコンシエルジェのようです。パロディーなのか真剣なのか、恐らく真剣なのでしょうが、そこが変。

 時代のせいではありません。彼らの場合は同時代的にも何か変でした。昔のビデオだから変だということではありませんから念のため。80年代を代表するバラードの名曲なのにどうしても引っ掛かりを感じてしまいます。何がおかしいんでしょうか。

 このアルバムはバハマで録音されています。当時はやってたナッソー・コンパス・ポイント・スタジオです。ドラムの音は80年代の典型的なものです。シンセサイザーはメンバーの楽器クレジットにはありませんが、控え目ながらも随所に使われています。

 サウンドの要はケンプ兄弟でボーカルのトニーではありません。全曲ギターのゲイリー・ケンプが作っています。しかし、このケンプ兄弟が役者稼業にうつつを抜かしたことが原因で、バンドは長続きしませんでした。ミニ・シナトラの発想はそこからでした。

 ところで復刻された帯には、「ヴィジュアルなサウンドが、誘惑の夜を告げる。都会の風が、甘く、切なく感じたから。さあ、光の中に踊りに行こう...。」というキャッチ・コピーがあります。とてもいいです。雰囲気がよく出ています。

Edited on 2018/2/24

True / Spandau Ballet (1983 Chrysalis)