あれも聴きたいこれも聴きたい-Bjork3
 2011年に行われたウィリアム王子の結婚式でキャサリン妃が着られていたウェディング・ドレスはアレクサンダー・マックイーンのデザインによるものでした。異端児だった彼のブランドが今や王室御用達とは感慨深いものがあります。

 このアルバム・ジャケットはそのアレクサンダー・マックイーンがデザインしたものです。何とも凄まじいデザインです。美しいかと言われれば、とうてい普通に見慣れた美しさではありません。しかし、こちらの美意識に修正を迫る迫力です。ビョークの音楽のようです。

 このアルバムが発表された頃、アレクサンダー・マックイーンはポール・マッカートニーの娘ステラとともに英国からの新しい旋風としてファッション界で騒がれ始めていました。その斬新なデザインが世界に衝撃を与えていたんです。

 そんな若い才能にとってビョークは仲間だったんでしょう。ビョークのまわりにはエッジの利いた若いアーティストがわんさといたんです。エッジの利いた若者はとりあえずビョークを目指すとでもいうのでしょうか、そうした状況も含めてこの頃のビョークは最強でした。

 その才能たちが手掛けたPVが凄いです。フランスの映画監督ミシェル・ゴンドリー、英国の映像作家マーク・カニンガム、それにアレクサンダー・マックイーンやポール・ホワイトといった若い才能が手掛けていて、どの作品にも見事に度肝を抜かれます。

 中でも「ハンター」は凄いです。誰もこんなことを思いつかないでしょう。「ヨーガ」も「オール・イズ・フル・オブ・ラヴ」も全部凄いです。結構アイデアが拝借されているので、どこかで見たことあるな、と思う方もいらっしゃると思いますが、こちらがオリジナルです。

 本格ソロ3枚目となるこのアルバムは前作と異なり、ほぼ全体を通してワープ・レコードのテクノ・ユニットLFOのマーク・ベルがプロデューサーを務めています。そのせいか、前作の多彩な音の実験にかわって、アルバム全体が同じ色に染められています。

 あまり単純化するのもなんですが、ブレイク・ビートにストリングスを配したサウンドに縦横無尽のボーカルが駈ける、そんな印象です。とても斬新でありながらポップさも失っていません。そんなわけで、この作品をビョークの最高傑作に推す人も多いです。

 ビョーク自身は本作を「私が子どもの頃に聴いた音楽にとても近い」と言っています。深いところでアイスランド的なんだということでしょう。斬新な意匠に包まれていても、新奇なものを追及することが自己目的化しないビョークならではの発言です。

 本作品はチャート的には突出しているわけではありませんが、1990年代を代表する作品であることは間違いありません。前作、前々作に引き続いて、壮絶に美しい作品です。いつ聴いても斬新です。素晴らしい。

 私はこのアルバムの中では「バチェレット」が曲としては一番好きです。前作の「イザベル」の流れを汲んだドラマチックな曲で、最後に流れるコバのアコーディオンの一音一音まで心が配られたすごい曲です。

Rewritten on 2018/1/28

Homogenic / Björk (1997 One Little Indian)