あれも聴きたいこれも聴きたい-あぶらだこ
 通説によれば、「あぶらだこ」の名前は、バンド・リーダーの長谷川裕倫のバイト先の店長が怒る様子が、脂ぎった蛸のようだったことに由来するそうです。ゆでだこのように怒るという表現はありますが、あぶらぎった蛸というのは意表をついた言葉です。

 その話を聞く前には、私は、何か油まみれで働く整備工さんの手にできるタコのことかなと思っていました。あぶらだこのシュールな歌詞の世界からすれば、そんなベタな展開があろうはずがない。大変失礼しました。

 あぶらだこは日本のアンダーグラウンドなロック界では一目置かれた存在です。1983年に結成されて以来、途中休みはありますが、30年以上も現役を続けています。決して一般的な人気を得ているわけではありませんが、底堅いファンは健在です。

 ポップに流れることもなく、自らの音楽を追求し続けていますし、カルト的な人気にも驕ることがありません。レッド・ツェッペリンのようにオリジナル・アルバムにはすべてタイトルがなく、ジャケットの絵柄が通称になっているところもストイックでかっこいいです。

 彼らの音楽は執拗に「ジャンル分けを拒む」と言われます。ハードコア・パンクやポジティブ・パンクの分類にすかっとあてはまりにくいということのようですが、普通の人にはそもそもその分類自体がよく分からない。

 変拍子を多用しているところ、展開が急でいらちなところが既存の音とは違うんではないかと思います。あまり細かく分類せずに、フリー・フォームなロックといっておけばいいような気がします。イメージできればいいわけですから。

 このアルバムは彼らのデビュー盤です。結成当時のメンバーからはリーダーの長谷川、ベースの和泉明夫、ギターの小町裕は健在ですが、ドラムスは後にルインズやフリクションで活躍する吉田達也に交代しています。よりパワフルになったといえます。

 あぶらだこの中心はボーカルの長谷川です。彼の歌を聴いていると、強烈に「和」の匂いがします。このアルバム以降の話ですが、後に彼が篳篥をプレーすると聴いた時に、すとんと合点がいきました。ちょっと古典芸能の匂いがするんです。

 考えてみれば、ニワトリ声でいちびったような発音の仕方をするボーカリストは日本語の人以外に思いつきません。リザードのモモヨとか今なら神聖かまってちゃんのの子がちょっとその気があります。日本語に適合した歌い方です。それが和テイストの正体かもしれません。

 長谷川は燕尾服に白塗りのメークでステージに立っていたそうですし、オート・モッドのジュネの主宰する「時の葬列」にも参加していました。ビジュアル面ではゴシック系統でもあったわけです。しかし、そこもまた和の香りです。白塗りは日本の良き伝統です。

 収録時間は短いですが、濃密な時間がつまっていて、彼らの心意気を感じます。当時のインディーズ・バンドの中では一際インパクトがありました。大口を叩くでもなく、ストイックな佇まいで我が道を行く姿はとても眩しかった。

Rewritten on 2016/6/1

Aburadako (tree) / Aburadako (1985 Japan)