あれも聴きたいこれも聴きたい-Jobraiath
 このアルバムが発売された頃は中学生でした。レコードを買ったわけではありませんが、このジャケットは脳の奥深くにしっかりと刻まれました。というのも、友人が買ったと聞いて見せてもらいに行ったんです。30cm四方のジョブライアスは本当に迫力がありました。

 そのことだけは強烈に覚えているのですけれども、音の方は数少ないロック友だちだった友人と、「何だか凄いねえ」と話したことが微かに記憶にある程度です。ジャケットの印象ほどには強烈ではなかったのでしょう。

 ジョブライアスはレコード会社による破格のプロモーションによって売り出されたスターです。イギリスのグラム・ロックに対抗すべく、アメリカ発のグラム・ロック・スターを売り出すのだという強烈なレコード会社の意思が働いています。

 しかし、業界が前に出過ぎると反発を買うのも避けられないことです。一般のリスナーには「ハッタリばかりの、人工的な虚飾に満ちたアーティスト」とみなされてしまいます。あまりにグラム・ロックの典型的なフォーマットに乗ったのも良くなかったのでしょう。

 そして、ジョブライアスはゲイであることを広言した人です。当時としては画期的な出来事です。しかし、レコード会社はそれも格好の題材だとプロモーションに使ってしまいます。この当時ですからまだまだ背徳のイメージが濃厚でした。スターの悲劇です。

 ジョブライアスは20代前半でミュージカル「ヘアー」のキャストとしてショウビズ界にデビューしました。その後、ピジョンというグループでレコード・デビューしますが、成功はせず、ニューヨークに居を移してからその才能が開花します。

 カーリー・サイモンのマネージャーだったジェリー・ブラントとの出会いで、エレクトラ・レーベルからのソロ・デビューが決まりました。ブラントの仕掛けがその大々的なプロモーションです。結果はやり過ぎでしたが、とにもかくにも彼の作品が残ったことは喜ばしい限りです。

 結局、ジョブライアスは商業的成功とは無縁のまま、短い活動を終えるのですが、時代を経て、モリッシーを始めとする英国パンク・ニューウェーブ勢が絶賛したことで一躍注目をされることとなりました。だからといってのこのこ再登場したりしないところはカッコいいです。

 あらためて聴いてみると、何だか物悲しい音楽です。貧乏臭いというのではなくて、純粋なんですね。「存在」というものに付きまとう物悲しさを感じさせるとでも言うのでしょうか、薄荷のように美しい佇まいです。

 とりわけ社会の中で居場所を見つけられないローティーンの耳には個人的に語りかけてくるでしょう。そんな音楽です。素晴らしい。代表曲「スペース・クラウン」の劇場的な構成などはほろっと来ます。

 音楽の種類から言えば、シアトリカルなグラム・ロックということとなります。ゲストのピーター・フランプトンのギターもよく似合いますし、ボードヴィル調のピアノもいい味を出しています。総じてB級と言えばB級ですが、彼の魅力はそんなことでは測れません。

Edited on 2018/1/8

Jobriath / Jobriath (1973 Elektra)