あれも聴きたいこれも聴きたい-Stooges
 イギー・ポップ&ストゥージズはMC5と並ぶデトロイトのアンダーグランド・シーンの立役者です。両者は活動を共にすることもある兄弟バンドでした。両者は典型的なガレージ・ロックで、どちらも元祖パンクと呼ばれています。こっちの方がMC5よりもパンクのイメージに近い。

 この日本盤ではイギー・ポップ&ストゥージズと表記されていますが、原盤ではあくまでザ・ストゥージズです。もちろんボーカルはイギー・ポップですが、ここではイギー・ストージと名乗っています。ワンマンですけれどもバンドはバンドです。

 そのイギー・ポップは日本のレコード会社によって「淫力魔人」と名付けられたことがあります。これは素晴らしい名付けです。日本語の妙味を最大限に活かして、イギーの無暗に絶倫なイメージを表して秀逸です。付け加える言葉を持ちません。淫力魔人ですよ、なんたって。

 MC5と比較すると、こちらはイギーのカリスマに頼ったところがあり、バンドとしての面白さではMC5に軍配が上がります。しかし、さすがに淫力魔人のカリスマは群を抜いていて、決してこのバンドがつまらないというわけではありません。

 当時、ロスのドアーズ、ニューヨークのヴェルヴェット・アンダーグラウンド、デトロイトのストゥージズと並び称されたそうで、フラワー・ムーヴメントが終わって、虚無的な空気が漂った時代にぴったりなバンド群でした。

 この作品は、その並び称されたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの頭脳ジョン・ケールがプロデュースしています。この作品は、彼のプロデュースした作品の中ではパティ・スミスの「ホーセス」と共通する雰囲気があります。

 バンドのもわーっとしたアンサンブルを重視するのではなく、妙に各楽器の分離がはっきりしていて、生々しい音なんですね。MC5のライブ盤とは全く違う音です。だからでしょうか、このデビュー・アルバムは大人しすぎると酷評されたこともあったようです。

 それでも聴いているとじわじわ染みてくるところがジョン・ケールのプロデュース・ワークです。イギーが赤裸々に迫ってきます。バンドもソリッドなギターが結構な味わいを出していますし、ビートもメタリックな感じでなかなかのものです。

 サイケ丸出しの長い曲もありますが、大半は短い曲でイギーがシャウトするのではなく、抑えた調子で歌います。その野太い迫力のある声にしびれます。ドアーズのジム・モリソンよりも露骨に悪そうな感じがするところがイギーの魅力です。

 しかし、売れなかったようです。まあ、伝説は残りましたし、時代が下るにつれて評価は高まり、ついにはロックの殿堂入りまで果たしています。「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」や「ノー・ファン」などは永遠のロック・スタンダードですし。

 特にイギー・ポップの人気は衰えることを知りません。しかし、ストゥージズでの短い活動期間の後は、活動も続けてはいるものの、伝説の人としての人気によるところが大きく、決して同時代人になり切れません。それだけストゥージズが鮮烈だったということなんでしょう。

Edited on 2018/1/7

The Stooges / The Stooges (1969 Elektra)