あれも聴きたいこれも聴きたい-AsakaYui
 イギリスの新聞に、セレブの皆さんの間でSNSを辞める動きが広がっているという記事が掲載されていました。手が届かないところにいるからこそのセレブであって、直接コミュニケーションがとれるようになると碌なことがないという趣旨の記事でした。

 一言で言えば「安くなる」ということでしょう。アイドルも同じことです。恋人、結婚、復帰、懐かしのメロディーに出演、あらゆる機会が「安くなる」危険を伴います。また、一般に脱ぐと安くなります。例外的にあまりの神々しい裸身に返って「高くなる」人もいますけれども。

 そんな中で、浅香唯は不思議に安くならない人です。アイドル時代に交際宣言をした男性と14年の恋を実らせて結婚という事実は、山口百恵的にお高いです。懐メロ番組でも緊張感のある容姿で、他と一線を画しています。単に私がファンなだけなのかもしれませんが。

 1989年3月に発表されたこのアルバムには彼女の代表曲「セシル」と「TRUE LOVE」が収録されています。浅香唯全盛期のアルバムだと言ってよいでしょう。総合チャートでは2位でしたが、CDチャートでは1位を記録しています。

 楽曲作りに携わっているのは、TMネットワークの木根尚登、矢沢ファミリーから誕生したユニットのノーバディ、ゴダイゴのタケカワユキヒデなど作曲者だけで7組、作詞は6人、編曲は6人。全10曲なのにこの大人数です。

 どうやらシングル候補曲を集めたアルバムというのがあたっているようです。多彩な作家陣なのに、不思議に統一感があるのは、注文の仕方がよろしかったということでしょうか。浅香唯のほんのわずかハスキーな声の魅力をうまく引き出しています。

 浅香唯の声は可愛いというよりも、ロック向きの声だと思います。本人もロック宣言をしたことがありますが、それはそれでやってみたら面白かったのではないでしょうか。この顔と体形でロックをやれば、新世代のロックになったことでしょう。

 しかし、この作品は1989年作品ではありますけれども、全体の仕上がりはJポップというよりは昔の歌謡曲に近い位置にあります。ましてやロック的な感覚はそれほどありません。曲はロック調であっても、どちらかと言えば歌謡曲。

 その歌謡曲の王道、アイドル歌謡の王道にあるのが「セシル」です。この曲はこの作品の中で、いや浅香唯の全作品の中でベストだと思います。一般に紹介されるのが「Cガール」なのをいつも納得いかない気持ちで見ていました。

 「セシル」はフランソワーズ・サガンのベストセラー「悲しみよこんにちは」の主人公のことです。サガンは日本でも女学生の間で広く読まれていましたし、映画にもなりました。そんな名前が出てくるところも歌謡曲的です。それはともかく、この曲は本当に可愛らしい。

 浅香唯は、中山美穂、工藤静香、南野陽子とともにアイドル四天王と呼ばれていました。名前を並べてみると、四者四様、皆さん活躍していますが、浅香唯はまっすぐぶりで群を抜いているのが分かります。人生模様です。

Edited on 2018/1/4

Melody Fair / Yui Asaka (1989 ハミング・バード)