あれも聴きたいこれも聴きたい-DrumLesson
 ドラムのお稽古と言えば思い出す光景があります。それは故郷の海岸沿いにある公園での一コマです。友人がリヤカーにドラム・キットを積んで運んで来て、一人海に向かって一心不乱に叩きまくっていたんです。大らかな時代でした。田舎ならではのお話です。

 このアルバムは「ドラム・レッスン」と題されてはいますが、ドラムだけを叩きまくっているわけではありません。ましてやリヤカーで運び出して屋外にしつらえたわけでもありません。ちゃんとスタジオで他の楽器も交えて至極オーソドックスなドラム・サウンドを展開しています。

 ジャケット画像からも分かる通り、決して「ドラムのお稽古」ではなくて、ちゃんとクラブ・ジャズに分類される音楽です。クリスチャン・プロマーはもともとドラマーなので、新たにユニットを作る時に習作という意味も込めてお茶目な名前をつけたというわけなんでしょう。

 プロマーはドイツ人で、バンド・メンバーもみんなヨーロッパ大陸出身です。というわけでもありませんが、クラブ・ジャズはヨーロッパ大陸に良く似合います。それも北欧や中欧。ラテン社会というよりもそちらの方です。暗い森が広がっている方。

 冷ややかだけれども柔らかい。極上の音で紡がれるのがクラブ・ジャズです。ジャズと言えばジャズですけれども、まるで格闘技のようなフリー・ジャズとも違いますし、クラシックなジャズとも違う。ジャズとは何かと考えてしまう私がいます。

 ユニットはピアノ・トリオにパーカッション奏者を加えた4人編成です。プロマー自身はプロデューサーとしてクレジットされているのみですが、パーカッションとエレクトロニクスで演奏にも参加しているようです。書いてありませんが。 

 プロマーはファウナ・フラッシュというユニットなどで、ジャジーなクロスオーバー・サウンドを展開していましたが、ここでは、同じドイツのジャズ界で名を馳せた面々を従えての音づくりということで、ファウナ・フラッシュに比べればずっとジャズ寄りです。

 とはいえ、この作品では、テクノの神話クラフトワークの「ヨーロッパ特急」やデトロイト・テクノのオリジネーター、デリック・メイの「ストリングス・オブ・ライフ」、シカゴ・ハウスの大物ラリー・ハードの「キャン・ユー・フィール・イット」のカバーが収録されています。

 こんなところでクロスオーバーしてきたかと膝を打ってしまいました。「ヨーロッパ特急」では、あのシンセによるメロディーがピアノで再現されています。肝心のドラムも特急なみに疾走していて爽快です。まことに心憎い限りです。

 アルバムの構成は1から4まである「ドラムレッスン」がオリジナル、それ以外はカバーです。ディープハウスのアンセム「REJ」、オランダのジェイディー「プラスチック・ドリーム」、DJグレゴリーの「エル」、iOの「クレア」などなどクラブ・トラックが並んでいます。

 してみると、やはり他のアーティストの曲を生演奏でやってみるということなんでしょうから、本当に気分はレッスンなのかもしれません。発表の場を持つことで練習にも身が入るというもの。心憎いアレンジはトリビュートなのでしょう。良い人たちです。

Edited on 2018/1/2

Drumlesson Vol.1 / Christian Prommer's Drumlesson (2007 Sonar Kollektiv)