あれも聴きたいこれも聴きたい-Blacksheep
 先に謝っておきます。ごめんなさい。これはジャケ買いです。メンバーのスガダイローによれば、このジャケットは外人の購買意欲をそそる戦略だそうですが、日本人の私もすっかりそそられてしまいました。黒執事の羊子ちゃん、可愛いです。

 ちょっと私の大好きな「あずまんが大王」の大阪を邪悪にしたような感じのこの絵は西島大介の作品です。DJまほうつかいとして音楽活動もしている人で、このバンドにはぴったりです。頭から生えているのは羊の角ですね。ブラックシープ。

 ついでにスガによれば、ブラックシープの海外仕様名はチョンマゲで、メンバー全員にいざとなったらちょん髷が結えるように髪を伸ばすことを義務付けていたのだそうです。最初から海外市場を意識しているのに、まるで気負いがない。

 ジャズのいいところの一つにどんな楽器編成もありだということがあります。このバンドはバリトン・サックスとバス・クラリネットの吉田隆一、トロンボーンの後藤篤、ピアノのスガダイローのトリオ編成です。初めて聴いた編成ですが、これがとても自然でいけてます。

 彼らのオフィシャル・サイトには、「現代音楽、ジャズを核に・・・あるときは美しく、あるときは激しく、あるときはユーモラスに、またあるときはシリアスに。」とあります。また、スガダイローを「1974年生まれなのにクラブ音楽には流れず」と紹介しているサイトもありました。

 しかし、リリカルが舞い降りてくるピアノといい、トリオの間で交わされている声のない会話が聴こえてくるようなアンサンブルといい、ジャズの王道という気がします。聴いていてとても幸せになりました。

 この作品は、ライブではなく、公開録音という面白い形で録音されています。結果的には大成功です。不特定多数のライブよりも少人数のコアな人々の前で演奏する方が緊張感が高いでしょう。ピア・プレッシャーがきつい。

 このCDからはカットされていますが、録音セッションではSF映画のサントラを二曲やったのだそうです。そして、収録された曲の中には「時の声」や「滅びの風」というSF小説の題名がつけられた曲が二曲あります。

 前者は私も若い頃に読みふけったJGバラードの傑作、後者は栗本薫の作品、二人とも少し前に亡くなりました。さらに「重力の記憶」はトマス・ピンチョンかと一瞬思いましたが、あちらは記憶ではなくて虹でした。

 とまれ、ことほど左様に彼らのコンセプトにはSFが作用しています。リーダーの吉田は、SFが説いているのは「あなたの生が無価値で無意味であることを受け入れた上でなお誇りを持って生きよ」と解釈されています。

 至言です。自分のやっていることが、価値があって意味があると思い込んでいると、他人に対して傲慢になります。かと言って卑屈になるのは違います。私も音楽から学んできたのはまさにそのことだったと思っています。

Rewritten on 2017/12/14

Blacksheep 2 / Blacksheep (2011 Doubt Music)