あれも聴きたいこれも聴きたい-GodleyCreme
 超大作です。CDでは2枚に収まっていますけれども、LPで発表された時は3枚組でした。2枚組まではよく見かけても、3枚組となると途端に常識外れの超大作と感じます。10ccから飛び出したゴドレイ&クレームらしい気合の入った問題作です。

 ゴドレイ&クレームは音楽ビデオの制作でその名を馳せましたので、恐らくはそちらの方が有名でしょう。彼らの作るビデオはあっと驚くアイデア満載ですが、音楽の方も負けず劣らず不思議なものです。いかにもブリティッシュなウィットに溢れています。

 しかし、本来抽象度が高い音楽の方が、映像よりも不思議なものが受け入れられにくいものです。この超大作も全然売れませんでした。長すぎるからではないかと、コンパクトにまとめたダイジェスト版も出されたのですが、やっぱり売れませんでした。

 この作品は彼らが発明したギズモという楽器の可能性をとことんまで追求することを目的に作られたものです。ギズモはギターのアタッチメントで、バイオリンやストリングスの音を始めいろんな音が出せるという大変便利なものです。

 シンセサイザーなどでも出来るわけですが、彼らに言わせると「だって、ギズモの方が安いじゃない」ということだそうです。そのギズモが遊びまわるということで邦題は「ギズモ・ファンタジア」です。原題を直訳すると「結果」。「自然には罰も褒美もない、結果があるだけ」。

 そんな原題通り、アルバムは「荒れ狂う自然の脅威に音楽で立ち向かう」というストーリー仕立てになっています。まず、1枚目は、その自然の脅威そのもの、すなわち嵐の音やら象の吼える声などをギズモで再現します。ギズモの音のカタログです。

 2枚目と3枚目の前半で、コメディアンのピーター・クックが演じるダイアローグと歌からなる演劇が行われます。そうして、最後にその自然の脅威に対抗するピアノ協奏曲で締めくくられます。約2時間にわたって展開する三部構成の長い長いお話です。

 ところが、作品はもともとギズモを売るためのシングル盤を作るというところから出発しています。アイデアがどんどん膨らんで最終的には3枚組です。批評家からは「わがままがすぎる」と酷評され、今に至るもケヴィン・ゴドレイの心に傷を残しました。

 ロル・クレームの方は「どうせ我々はわがままだ」と開き直っています。理想的なコンビです。3枚組にするからわがままなんて言われるんです。当時はまだオイル・ショックの影響から立ち直れきれておらず、レコード盤は節約すべき貴重な資源でしたから。

 ただ、こういう作品ですから、当然カルトなフォロワーがいます。実に英国的な感覚のコメディですし、ピーター・クックが4人の男を声だけで演じ分けるその才能には驚きます。曲は10ccの難しい側の二人ならでは。くせは強いものの、何とも言えない香気が漂っています。

 それに普通にメロディーが綺麗な歌も多い。ほとんどは二人だけでやっていますが、なんとあのサラ・ヴォーンが一曲だけ歌っています。全盛期の歌唱からは程遠いですが、このアルバムらしくない話で面白いです。ごった煮感の溢れる不思議なアルバムです。

*2011年5月8日の記事を書き直しました。

Consequences / Lol Crème and Kevin Godley (1977 Mercury)



Songs:
(disc 1)
01. Seascape
02. Wind
03. Fireworks
04. Stampede
05. Burial Scene
06. Sleeping Earth
07. Honolulu Lulu
08. The Flood
09. Five O'Clock In The Morning
10. Dialogue
11. When Things Go Wrong
12. Dialogue
13. Lost Weekend
(disc 2)
01. Dialogue
02. Rosie
03. Dialogue
04. Office Chase
05. Dialogue
06. Cool, Cool, Cool
07. Dialogue
08. Cool, Cool, Cool (reprise)
09. Dialogue
10. Sailor
11. Dialogue
12. Mobilization
13. Dialogue
14. Please, Please, Please
15. Dialogue
16. Blint's Tune (Movements 1-17)

Personnel:
Lol Crème
Kevin Godley
***
Peter Cook
Sarah Vaughan
Judy Huxtable
Peter Wheeler
Andy Peebles