あれも聴きたいこれも聴きたい-HenryMancini
 私たちが子どもの頃、「子象の行進」は運動会の大定番曲でした。この曲を始め、ヘンリー・マンシーニの音楽はさまざまな場面で流れていました。きっと、私たちの音楽脳の結構大きな部分をヘンリー・マンシーニが占めていることでしょう。

 ヘンリー・マンシーニはテレビ・シリーズ「ピーター・ガン」の音楽を担当して、1959年にいきなり全米1位を獲得します。テレビ番組の音楽がレコードとして発売されるのも当時は異例だったそうですけれども、これが見事にあたりました。

 職がなくて途方に暮れていた時に、床屋を出たところでブレーク・エドワーズ監督と出会って、この仕事をもらったのだそうです。床屋さんに行かなければこの成功はなかったというエピソードは有名です。

 そして、1961年にはオードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食を」がまたまた大ヒット、中でも「ムーン・リバー」は不朽の名作としてスタンダード化しています。その後、「シャレード」「ひまわり」そして「ピンク・パンサー」とヒットが続きます。

 マンシーニは、映画やテレビの音楽を担当するばかりではなく、アレンジャーとしても才能を発揮し、自らオーケストラを率いて活躍します。ニーノ・ロータの「ロミオとジュリエット」やフランシス・レイの「ある愛の詩」のアレンジは有名です。特に前者はグラミー賞を獲得しています。

 彼は、とても優れた人柄だったようで、怒った顔を見たことがないといわれますし、醜聞も聞きません。オーケストラがポピュラー音楽をやるのはあまり楽しくないそうですが、ヘンリーとの仕事だけは例外でした。全ての楽団員を敬意を持って扱うからだということです。

 そんな彼の紡ぎだす音楽はとにかく美しいです。しかし、逆に彼が作り出す音楽を「美しい」とするのだという刷り込みを幼少の頃から受けているのではないかしらんと不安にもなってきます。スタンダードとはそういうものでしょう。

 とはいえ、まあそう深刻にならずに聴いてみると、ハイセンスなジャズや、ボサノヴァ、サンバ、ワルツにマーチと多彩な曲調ですし、管楽器やシンセサイザーの使い方にもセンスの良さがにじみ出ていて感動すらしてしまいます。

 特に彼のフルートやピッコロの使い方は革命的だったようです。稀代のメロディー・メーカーの上に、そうした器楽のセンス。さらにさらに、人柄の良さがサウンドににじみ出ていますし、決してやっつけにならない丁寧な仕事も素敵です。

 名曲があまたある中で、私が一番好きなのは何と言っても「ピンク・パンサー」です。映画そのものも繰り返し見ているので贔屓目なのかもしれませんが、プラス・ジョンソンのテナー・サックスの素晴らしさには声もでません。

 同じブレイク・エドワーズ、ピーター・セラーズ、ヘンリー・マンシーニのトリオ作「パーティー」も傑作でした。ピーター・セラーズのあまりに素晴らしいインド人英語には在日パキスタン大使も太鼓判を押されていました。サイケなマンシーニも素敵です。

Edited on 2017/11/25

The Days Of Wine And Roses / Henry Mancini (1995 RCA)