あれも聴きたいこれも聴きたい-PIL
 パブリック・イメージ・リミテッドのボックス・セットはCD4枚組です。さすがに4枚を一気に聴いたのは初めてです。4時間強。しかし、大好きなバンドだけに意外に時間が経つのは早かったです。次第に時間が加速していくようでした。

 パブリック・イメージ・リミテッド、PiLはパンクの定義であるセックス・ピストルズの中心人物ジョニー・ロットン改めジョン・ライドンがピストルズ解散後の1978年に結成したバンドです。一応、1992年に一度解散しますから、この企画が編まれた頃は解散中でした。

 このボックス・セットは1999年に発売されたもので、全シングル曲に加えて、デビュー・アルバム以降8枚のスタジオ・アルバムから選ばれた曲や未発表バージョンを収録しています。約15年のキャリアを網羅していると言ってよいでしょう。

 オリジナルPiLはライドンのボーカルと、ジャー・ウォーブルの太っといベース、元クラッシュのキース・レヴィンの先鋭的なギターが持ち味でした。デビュー・アルバムは、カンなどのクラウト・ロックやダブの影響を受けたサウンドで、ロック的では全くありませんでしたが素敵でした。

 2枚目となるメタル・ボックスは奇跡のようなアルバムです。ぶんぶんベースが素晴らしく、音響的にもとても面白いアルバムです。3枚目の「フラワーズ・オブ・ロマンス」はジャー・ウォーブルが脱退してベースレスで録音されています。

 新たに加わったマーティン・アトキンスがはずまないドラムを叩き、キースは勝手にシンセをいじり、ジョンが呪術のようなボーカルを披露します。どちらもロック史に燦然と輝く超名盤で、大たいこの2枚がPiLの最高傑作と言われています。

 続く4枚目がジョンとマーティンの二人による作品、5枚目はほぼジョンのソロです。それまでの驚きがなくなった分、あまり評価されておらず、さらにその後となるとまるで余生のように扱われています。私も6枚目となる「ハッピー」より後はちゃんとフォローしていませんでした。

 しかし、人の人生を勝手に途中で判断してはいけません。今回改めて聴いてみると、後期のPiLも素晴らしいです。スティーブ・ヴァイのスタント・ギターやら、世界の坂本のキーボード、惜しくも亡くなってしまった元マガジンのジョン・マッギオークのきらきらしたプレイ。

 ジンジャー・ベーカーのどんどこドラム、ネリ・フーパーのサウンド・クリエーションなど、ゲスト陣も多彩です。恐らくみんなジョンのファンなんでしょう。こうしてまとめて聴くと皆が楽しそうなところが良いです。意外とライドンはいい人なのかもしれません。

 それにしても、ジョン・ライドンのボーカルは凄いです。不世出のボーカリストです。独特のリズム感を持ついちびり声のボーカルは実験的な音楽でもメロディアスな曲でも魅力全開です。そんな人なのにボーカルにこだわっている感じがまるでないところも面白いと思います。

 PiLは「今たまたまファッショナブルであることから超然としてい」ます。一言で言えば、音楽に対してとても真摯な態度をとっているということです。なかなかこの態度を貫くことは難しいですが、さすがに世界の嫌われ者だけに正直にわが道を行っています。天晴な人です。

Edited on 2017/11/5

Plastic Box / Public Image Ltd. (1999 Virgin)