あれも聴きたいこれも聴きたい-JoniMitchell6
 何を隠そう、リアルタイムでジョニ・ミッチェルのCDを買ったのはこのアルバムが最初でした。もちろんジョニの歌をリアルタイムで聴いたことがなかったわけではありませんし、過去のアルバムをリイシューで揃えていたりはしました。

 しかし、とにかく「おっ、発売されたか」と思って買ったのはこれが最初です。その後も買いそびれていますので、今のところはリアルタイム組はこの作品だけです。結構好きなアーティストなのに、ちょっと世代が上だとこういうことになります。

 それで結論から申し上げますと、この作品が一番好きです。少人数の編成でシンプルに曲を聴かせます。ジョニ・ミッチェル自身は「アコースティックな気持」で作ったと語っています。まさにそんな感じです。

 支えるミュージシャンは夫であるベースのラリー・クライン、フランク・ザッパが絶賛するドラマー、ビニー・カリウタとウェザー・リポートでも活躍したパーカッションのアレックス・アクーニャの三人に、ゲストでウェイン・ショーターなどが加わります。

 とてもシンプルなアレンジなんですが、ジャズ時代のエッセンスの全てが盛り込まれていますし、音数は少ないなかにとてつもない情報が隠されています。大人です。あえて見せびらかさない。全てはスープに溶けて濃縮されているような感じです。

 ジョニは60年代のフォーク時代、70年代のジャズ時代を経て、80年代はトーマス・ドルビーと共演してエレクトロニクスに走ったり、ピーター・ガブリエルを始めとする豪華ゲスト陣を共演に迎えたりと派手な活動をしていました。

 そんな疾風怒濤の80年代を過ごした後、90年代には驚くほどシンプルな世界に辿りついたわけです。声も若い頃に比べるとしわがれてきて、そこがまた何とも言えない魅力です。円熟です。侘び寂びの佇まいとも言えます。

 このアルバムは何度も何度も聴いているので、ほとんど覚えてしまいました。冒頭に置かれたタイトル曲からして最高です。そして、「カム・イン・フロム・ザ・コールド」での高音部分の声にお腹からもっていかれそうです。

 とまあ絶賛しているわけですが、かなり引け目も感じています。ジョニの音楽の批評を読むと大たい歌詞の話が大きくとりあげられているわけですが、ほとんど歌詞に注目していないからです。決して難解な歌詞ではないのですが。

 耳につくフレーズもありますし、全てのアルバムで丁寧に歌詞が印刷されていて、さらに邦訳もあるので、歌詞をきちんと聞かないといけないのですけれども。まあ、そこは歌詞の魅力に触れなくても、ジョニ・ミッチェルは偉大な音楽家であるということでよしとしましょう。

 少数の気心の知れたミュージシャンだけを集めて、極めてプライベートな空気の中で作り出されたこの作品を聴いていると、自分のまわりにも透明の靄が下りてきて、心安らかな空気がかもし出されてきます。ジョニの悟りの境地は素晴らしいです。

Rewritten on 2017/11/5

Night Ride Home / Joni Mitchell (1991 Geffen)