あれも聴きたいこれも聴きたい-JoniMitchell5
 ジャケットに写っている黒人男性はジョニ・ミッチェルの別人格なんだそうです。まさかジョニ本人による扮装だとは思ってもみませんでした。さすがはジョニ・ミッチェル、型にはまらない行動をする人ですけれども、このアイデアには驚きました。しかも変装の質が高い。

 今回のアルバムはアサイラム・レコードとの契約が終わりに近づいたことで、何をやっても許される環境になったことから、思い切り実験的なアルバムになったとのことです。怖いものなしの状況で生まれたアルバムだということです。

 パーカッションとボーカルだけの「第十世界」とか、16分もある「パプリカ・プレインズ」、チューニングを変えたギターのアンサンブルをフィーチャーした「オーヴァーチュア」などなど、凝りに凝った曲が続いています。

 参加メンバーはラリー・カールトンなどのおなじみのメンバーや前作からのジャコ・パストリアスに加え、ウェイン・ショーターを始めとするウェザー・レポートのメンバー、チャカ・カーンやイーグルスのグレン・フライなど幅がさらに広がりました。

 特にジャコ・パストリアスの活躍が目立ちます。「ジャコは私の夢のプレイヤーだった。彼はまったく規則に従わないの。彼のことは、全然思いどおりにできない。まるで野生児みたいな人よ」とジョニは語っています。いかにジョニがジャコに魅了されたかよくわかります。

 ただでさえジャズ畑のミュージシャンが多い上に、規則に従わないジャコが要となっていますから、即興が大胆に取り入れられていて、ジョニのジャズ的なアプローチはますます前に突き進んできました。もはや誰にも止められない。

 しかし、バンド感は希薄で、一曲一曲参加ミュージシャンも異なりますし、ギターの弾き語りなどもあります。これも全体を一つの映画のようにつくったアルバムだということですが、映画はどんどん難解になってきたようですね。全体で60分ありませんが、2枚組ですし。

 ジョニ・ミッチェル最後のゴールド・ディスクになりましたが、アルバムの評判はそれほど高くなく、多くのファンが離れていったと言われています。オール・ミュージックなどは、「プリテンシャス」と一刀両断です。増長しているというわけですね。

 自己探求心の強いジョニのようなアーティストが批判を受ける際に言われやすいことです。プリンスもしばしばプリテンシャスと批判を受けていました。しかし、こういう批判をする人はフォークのジョニが大好きな人たちなんでしょう。僕の好きなジョニよ、カム・バック。

 もちろん、酷評する人もいれば絶賛する人もいます。そこが実験精神あふれる問題作の問題作たる所以です。絶賛側からはジャコのもはや一番のリード楽器と化しているベース・プレイを筆頭に緊張感にあふれる鳥肌ものの演奏がまずは指摘されるところでしょう。

 私自身は、嫌いではありませんが、少し辛気臭いと感じてしまいました。フォーク・シンガーには、ギターやピアノの即興に手癖が出てくるような形で、メロディーに癖が出てくるところがあります。そんな形の即興がプリテンシャス感の源泉かも。

Rewritten on 2017/11/3

Don Juan's Reckless Daughter / Joni Mitchell (1977 Asylum)