あれも聴きたいこれも聴きたい-JoniMitchell4
 ジョニ・ミッチェルのジャケットはどれも秀逸ですが、私はどうにもこのアルバムのジャケットは好きになれません。黒いマントに写真を重ねるアイデアが凡庸な感じがしてしまいます。色合いは何とも素敵なんですけれど。

 前作「夏草の誘い」を発表したジョニは、ボブ・ディランの「ローリング・サンダー・レビュー」ツアーに参加します。何かと話題の多いこのツアーの間に次々と新曲が生まれたようで、このアルバムの半分はその時に出来た曲なんだそうです。

 その時期にジョニはチベット仏教の指導者チョギャム・トゥルンパに出会い、自己肯定を学んで、前向きに内省的になりました。やはり仏教の精神性は人を強くします。チベット仏教は神秘的な側面が強いですから、はまる人ははまります。

 そのようにして出来上がった本作ですが、一般的な解釈では、前作の不評は頑迷な世間の「ジョニはフォーク」観念を打ち破れなかったことにあると考えて、ジャズ・ミュージシャンを起用しつつもシンプルな表現に立ち返ったとされています。

 その解釈はあまり当たっているようにも思えませんが、音数が抑えられていて、弾き語りに近い音に仕上がっていることは確かです。形の上からはフォークに近いわけですけれども、前作に比べてもよりジャズ的になりました。

 しかし、そんなことより注目されるのは、ここでジョニのバンドに起こった大きな変化です。すなわち、夭折の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスの参加です。実は参加メンバーはジャコを除けばあまり変化はないのですが、ジャコが入るだけで印象がかなり変わっています。

 このアルバムにも参加しているラリー・カールトンは素晴らしいギタリストですが、とても器用なので、たとえば五輪真弓のバックで弾いたりしても違和感がありません。しかし、ジャコのベースは一音一音がジャコジャコ言っているので、誰とでも相性がいい訳ではありません。

 たとえて言えばユニコーンにインドの至宝ラヴィ・シャンカールが加入するようなものだとでも言えば分かってもらえるでしょうか。一歩間違えば大変なことになりそうです。しかし、ジョニとジャコの相性は抜群です。

 このアルバムで、ジャコが参加しているのは9曲中5曲ですが、全曲で鳴り響いているような感じがするほど、その存在感は抜群です。冒頭の「コヨーテ」から魅力全開です。やはり、そのフレットレス・ベースの威力は凄いです。

 そんな異種格闘家と対戦してどうだったかと言うと、猪木対アリ戦のような凡戦ではなく、前田対カレリンのような緊張感に満ちた試合になっています。ジョニがジャコとがっぷり四つに組んで音を紡いでいく姿は鳥肌ものと言えましょう。

 さらに本作にはニール・ヤングがハーモニカで参加しています。ニールとジョニはアマチュア時代にカナダで切磋琢磨した中です。ステッペン・ウルフにゲス・フー、ザ・バンドなどカナダ人脈は根っこが繋がっています。

Rewritten on 2017/11/3

Hejira / Joni Mitchell (1976 Asylum)