あれも聴きたいこれも聴きたい-JoniMitchell3
 素晴らしいジャケットです。すごいセンスです。これ、写真では分かりませんが、人物は浮き彫りになっています。この紙ジャケットではそれも忠実に再現されていて、愛を感じます。何かと紙ジャケ・ファンの間では評判の悪いワーナーさんもこのシリーズは素晴らしい。

 このアルバムの事は何故か聴いたことがないと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。むしろ、冒頭の曲「フランスの恋人たち」は、ジョニ・ミッチェルの名前を聴いて真っ先に思い浮かぶ、私にとってのジョニの代表曲です。

 アルバムの他の曲もよく知っています。何でアルバムを聴いたことがないと思ったのか不思議です。ただ、私だけではなさそうです。この作品はどうにも特異な位置にある作品の模様です。一般的な評判が必ずしも良くない。

 ジョニ自身の言葉によれば、「あのアルバムにはいろんな悪名がつけられたのよ。私の子供たちの中で、あの子だけは運動場でいつも殴られてばかりいたの」だそうです。これをさらに深めるのが、プリンスがこのアルバムを好きだと広言している事実です。意外です。

 一見、全く接点のなさそうなジョニとプリンスですけれども、このアルバムを聴いてみると、音楽に対する態度には共通するものがあるような気がしてきます。ついつい度を越してしまうのではないかと思うほど入れ込んでいくところでしょうか。

 この作品が発表された頃、私はジョニにはあまり興味はありませんでした。日本では依然としてフォークの系統で語られがちでしたし、フュージョン系はAORとして大人向けに括られつつありました。当時ロック少年だった私には縁遠い世界に見えたわけです。

 ところが、実際、自分が大人になった時にどう思うかと言えば、これはもう何のひっかかりもなくすっと胸に沁みてきます。妙な電子楽器を使っているわけではないですし、フュージョン系はロック系に比べて流行りが少ないので、今聴いても特に古いという感じはしません。

 基本的に前作を踏襲した作りですが、受ける印象は随分違います。前作を新しいバンドを得た喜びで一気に作ったものとすると、こちらは一曲一曲がより作りこまれている印象があります。そのため、どうしても勢いでは前作に分があります。

 本人はこのアルバムに始まる三部作はすべて映画のように作ったと言っています。映画にしても随分ストーリーが複雑に込み入った作品に違いありません。それだけ聴いている者を考えさせることが多いです。

 前作の成功を受けて、ジャズ/フュージョン畑のLAエクスプレスとツアーを行い、満足できる出来に終わったことから、ジャズ系のサウンドへの傾倒がより顕著になってきており、複雑な映画にぴったりのサウンド展開となりました。

 それにしてもセンスのいい人です。ため息が出ます。ちょっと後で話題になることになるブルンジのドラムをいち早くとり入れているのはさすがだと言わざるを得ません。ジャケットともシンクロしているようですし、涎がでそうなサウンドです。

Edited on 2017/11/3

The Hissing Of Summer Lawns / Joni Mitchell (1975 Asylum)