あれも聴きたいこれも聴きたい-JoniMitchell2
 ジョニの最高傑作です。最高傑作かどうかは人によって違うかもしれませんが、一番多く売れたという事実は動かせません。全米2位、1年以上もチャート・インしたベスト・セラーです。シングル・カットされた「ヘルプ・ミー」はジョニ唯一のUSトップ10ヒットとなりました。

 グラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーとレコード・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされました。ちなみにその年に受賞したのは、それぞれスティービー・ワンダーの「ファースト・フィナーレ」とオリビア・ニュートン・ジョンの「愛の告白」です。懐かしいです。

 余談ですが、少なくとも80年代の中ごろまで、日本ではグラミー賞は大して話題になっていませんでした。東京音楽祭やユーロヴィジョン・コンテストと同じようにとらえられていたようにも思います。言い過ぎでしょうか。

 この作品は初期の傑作「ブルー」の次の次の作品です。間には「バラにおくる」が挟まっています。その「バラにおくる」には初めてジャズ/フュージョン畑のミュージシャンが参加し始めていましたが、この作品ではほとんどがそちら系のミュージシャンになりました。

 まずは、LAエクスプレスとクルセダースから、ラリー・カールトンやジョー・サンプルなど日本でもおなじみのミュージシャン、前作にも参加していたトム・スコットやウィルトン・フェルダー、ミルト・ホランドなどです。ちなみにザ・バンドのロビー・ロバートソンも参加しています。

 ジョニの発言によれば、自分の音楽が風変わりだったので、ロック・バンドでは演奏することができず、ある人の勧めでジャズ・ミュージシャンと一緒にやったところ、しっくりきたということなんだそうです。

 実際、しっくり来ています。クロスオーバーというかフュージョンというか、ジャズ寄りの演奏をバックにフォークなりロック寄りの歌を歌いまくるスタイルは彼女を嚆矢とするので、このアルバムを紹介する際に、ことさらスタイルのイノベーションが強調されます。

 しかし、当時を知らない人にはぴんとこないと思います。なんと言っても、今、女性ボーカルは多くがこのスタイルですから。ジョニはその先駆となったわけで、まことに偉大だと言えます。「ある人」は音楽の流れを変えましたね。

 それに「ブルー」と比べるとボーカルは格段に明るくなりました。明るいですが、媚びた感じは毛頭なくて、カナダの雪の大地を思わせる凛とした透明感は健在です。水を得た魚と申しますか、大空に放たれた鳥と申しますか、息の合った演奏陣を従えて、自由自在です。

 曲の編みあげられ方も半端じゃなくて、スティーリー・ダンを思わせるとする人が多いのもうなずけます。どの曲も素晴らしいですが、私は「丘の上の車」が好きです。どの曲が好きかで大いに論争できるのもアルバムの完成度の高さの証左でしょう。

 ところで ジョニ・ミッチェルはジャケットのアートワークを自分で手掛けています。どれも絶品です。絵を描いているのも彼女。その道でも十分に食べていけると思われる素晴らしさです。小さくスキャンしたので、今一つですが、LPは凄かったです。

Edited on 2017/10/30

Court and Spark / Joni Mitchell (1974 Asylum)