あれも聴きたいこれも聴きたい-Radierer
 ディー・ラディーラーも、ドイツのニュー・ウェイブ、すなわちノイエ・ドイッチェ・ヴェレの重要なバンドです。言うなれば諧謔派です。軽快なシンセとギターによる飄々とした音楽が身上で、何でもありの冗談っぽいバンドです。

 リーダーのユルゲン・ボイトは、同じ諧謔派のヴィルツシャフツヴンダーというバンドもやっていたということです。私はそちらも大好きで、よく聴いていたものですが、同じ人だとは思ってもみませんでした。どんくさい私の耳を呪います。

 ネットで調べてみますと、彼らのホームページがありました。いかんせんドイツ語なのでよく分からないのですが、どうやら現役バリバリらしいです。ライブ情報もありますし、比較的新しい作品も紹介されています。何とも感慨深いものです。

 ノイエ・ドイッチェ・ヴェレを最初に日本で紹介したのはロック・マガジンでした。編集長の阿木譲氏が誌上で興奮気味に紹介されていました。ついでに編集事務所でも販売されているというので、大阪に旅行に行った時に、事務所に立ちより、このLPを買いました。

 同じノイエ・ドイッチェ・ヴェレと言っても、このバンドはデア・プランなどとは違って普通の楽器によるバンドです。この作品は迷作ぞろいのズィック・ザック・レコードから発売されたディー・ラディーラーのデビュー・アルバムです。

 タイトルを直訳すると「北極熊とレモン」です。何とも人を喰った面白いタイトルですし、ミッキー・マウスの出来損ないも出てくるジャケットのイラストも大変面白いです。諧謔風味満載のインナー・スリーブでありました。

 曲名も「北極熊ディスコ」「レモンを頂戴」「自動販売機」「ドラッグ死」とか一筋縄ではいかないセンスを感じます。底流はパンクなのでしょうが、なんとも皮肉たっぷりで人をおちょくったようなサウンドが持ち味です。

 かしゃかしゃしたギター音にどんつくどんつく鳴るドラム、チープなオルガン、変なヴォイス・パフォーマンス。一言で言えば、とてもシンプルなバンド・サウンドです。上手いのかと言われると、まあ下手くそなんでしょうね。

 言葉が分からないのが残念ですが、歌詞もナンセンスなのでしょう。一押しは「ドラッグ死」です。♪マリファナ マリファナ マリファナ ヘイヘイヘイヘイ♪なんて歌っています。全般にいらちな感じの演奏がならぶ中で、ゆったりとした曲でアルバムのいいアクセントです。

 「面白いことをやりたい」と一心につきつめて、本当に「面白い」ことをやってしまう人というのは貴重なものです。多くの場合は、自己満足気味に終わってしまい、したり顔で「どやオモシロイやろ」と言われて鼻じらむものです。

 この人たちの場合は、外に向かって開かれたような音に仕上がっていて、決して閉じていないところが嬉しいです。ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの一連のバンドはとにかくユーモラスです。ドイツというと生真面目な印象がありますが、皆が皆そうではないということですね。

Edited on 2017/10/28

Eisbären und Zitronen / Die Radierer (1981 Zickzack)