あれも聴きたいこれも聴きたい-Pyrolator
 ピロレーターことクルト・ダールケはDAFのオリジナル・メンバーでしたが、途中で脱退してデア・プランに加入した人です。デア・プランはクルトの参加で音楽的な幅が広がったと一般に言われています。

 これはそんなクルトのソロ作品第二弾です。私は実はこの作品を買うのは初めてです。てっきり買い直しだとばかり思っていたのですが、もっとどよーんとしたサウンドだとばかり思っていたら、随分とカラフルな音なので驚いてしまいました。

 私が以前持っていたのは、ソロ・デビュー作の「インランド」の方でした。そちらはジャケット自体も暗い感じがしますし、ライナーノーツにはこの二作は随分感じが違うと書いてありますから、私の記憶も間違いなさそうです。

 ピロレーターは、当時まだ珍しかった日本製のシンセサイザーを購入したことがきっかけでバンドに誘われたんだそうです。ジャーマン・プログレッシブ・ロック初期のエピソードに近いものを感じますが、楽器目当ての人選は中高生にとっては当たり前ですよね。

 ピロレーターがこの作品で使っているのは、さらに進んで、発明家ヴェルナー・ランバーツに特注して作ってもらったデジタル楽器です。詳細は分かりませんが「ブロントロギーク」という名前だそうです。ハイテク・キッズです。

 なるほどデジタルです。アナログではなくデジタル。デジタルらしい音です。アマゾンのサイトで同時購入作品にオウテカの名前がありました。確かにオウテカのデジタル機材活用に近いものを感じます。ボーカル以外のトラックはほとんどデジタル・リズムだけの作品ですから。

 しかし、オウテカのシリアスでストイックなところに比べると、この作品ではピロレーターが理想的な機材を手に入れて有頂天になっている様子がありありとみえます。楽しそうなんですね。全体にうきうきした感じがするのはそのためでしょう。

 参加しているミュージシャンには、「日本サンバ」で有名なロスト・グリンゴスのエバーハルト・シュタインクリューガーや、デア・プランからフランク・フェンスターマッハー、どこにでも顔を出すホルガー・ヒラーなど、当時のノイエ・ドイッチェ・ヴェレ人脈が顔をそろえています。

 さらにアルバムの性格を示しているのは、10曲目の「スタジオ・ファタール」にボーカルで参加しているフランス人女性マルティネでしょう。何と彼はカフェで隣に座っていたところをスカウトしたのだそうです。あっけらかんとしたもんです。

 こんな人々が、それぞれに漂々とふざけています。しかし、ピロレーターの作り出すトラックはうきうきしながらも重厚です。何ともそのあたりのバランスが素敵です。驚くべきことに一切合成がないというジャケット写真に象徴されるようです。

 面白いことにシュタインクリューガーはこの作品に触発されてロスト・グリンゴスを結成したのだそうです。彼もまたケイコさんをボーカルにしていました。世界に広く開かれたサウンドは今でも通用しそうです。面白いアルバムです。

Edited on 2017/10/28

Ausland / Pyrolator (1981 Ata Tak)