あれも聴きたいこれも聴きたい-PharoahSanders
 確か1993年のことだったと思います。私はロンドンのライブハウスでファラオ・サンダースが演奏する姿を見たことがあります。何と言っても印象に残っているのは、ファラオがステージの真ん中に置かれた椅子に座っている姿です。

 ファラオはずっと椅子に腰かけていて、自分の出番が来るといかにも大儀そうに立ち上がって二三歩前に出てきて、ぶおぉーっとブローすると、また椅子に戻りました。そのカリスマ的な立ち居振る舞いをありがたく拝見したものです。

 ファラオ・サンダースは1940年生まれですから、その当時はまだ50歳を過ぎたところです。その時の印象は70歳くらいの老人のそれでしたから、改めて驚きました。仙人のような凄味が年齢を超越させていたのでしょう。

 閑話休題。ファラオ・サンダースは一般にジョン・コルトレーンの後継者と呼ばれるテナー・サックス奏者です。コルトレーン、サンダースにアルバート・アイラーで父と子と聖霊の三位一体なんだそうです。スピリチュアルな事この上ないお話です。

 サンダースは駆け出しの頃にサン・ラーと共演しています。その後、コルトレーンのグループで活動し、コルトレーン亡きあとはバンド・リーダーとなります。正真正銘の後継者であるわけです。サン・ラーからコルトレーン。なかなかの道行きです。

 本作品は1969年にインパルス・レコードから発表されたサンダースの代表作の一つです。彼のジャズは、一般にフリー・ジャズの括りで語られることが多く、このアルバムもフリー・ジャズとされているようです。

 しかし、コンヴェンショナルなジャズじゃないという、言葉の本来の定義からすれば、これもフリー・ジャズなんでしょうけれども、世間一般でイメージするいわゆる「フリー・ジャズ」とは随分と肌触りが違うように感じます。

 このアルバムに収められた曲はゆったりとしたリズムの中で、いろんな楽器が様々な音色を奏で、そこにアフリカのヨーデルのようなレオン・トーマスのスピリチュアルなボーカルがかぶさります。サバンナの夕焼け風景のようなサウンドです。

 おおらかな景色の中でたゆたうように時が流れて行きます。ミュージック・コンクレート風の演奏の部分でさえそうです。よく聴くとそうでもないのですが、曲全体を通して同じリズムが反復しているような感覚にとらわれます。演奏者全員がストーリーを共有しているようです。

 アルバムの中心はA面とB面にまたがっている「ザ・クリエイター・ハズ・ア・マスタープラン」です。すべては神の御心のままに、ということです。そしてアルバム・タイトルは「カルマ」。この世のすべてを表現していると言ってよいでしょう。スピリチュアルの極みです。

 クラブ・ジャズを好きな耳にはとてもやさしいのではないかと思います。実際、京都ジャズ・マッシヴの沖野さんなんかはそうおっしゃっているようです。R&Bやゴスペル的なリズム感覚がとてもクラブ的です。

Edited on 2017/10/9

Karma / Pharoah Sanders (1969 Impulse)