あれも聴きたいこれも聴きたい-Pungo
 パンクとタンゴでパンゴなのか、パンとご飯でパンゴなのか、意見が分かれていたように記憶しています。これは、バイオリン弾きの菅波ゆり子(今は向島ゆり子)と生活向上委員会などにも参加していたサックスの篠田昌巳を中心とする音楽集団の記録です。

 この作品は、タコと同じく、日本の自主制作の走りとなるピナコテカ・レコードから発売されたレコードの再発+αとなっています。録音は1980年から81年で、パンゴの活動時期も大たいそんなものでしたから、活動を網羅していると言ってもよいでしょう。

 レコードは、ボール紙のジャケットにシンプルな単色のイラストが描かれたセンスのいいもので、色違いが何種類かあり、私はあずき色バージョンを持っていました。そしてレーベル面には壁紙のような派手な色合いの紙が貼ってありました。

 当時、坂本教授がNHKのラジオ番組で何度もアルバム中の曲「ラクツ」をかけていました。普通のメジャーな音楽に混じってメディアからインディーズが流れるとは画期的でした。もさっとしたちょっと舌足らずの声で「次はパンゴです。ラクツ」。今でも耳に残っています。

 パンゴはバンドと言う事が憚られるほど不定形な音楽集団でした。メンバーにはコアとなる二人は必ず入るものの、二人だけのデュオとなったり、総勢50人の大集団になったりと伸縮自在、とてもオープンな集まりでした。

 タンゴだったりするのに、チンドン屋さんとか、おまつり風のリズムとか、そんな日本的な風情が溢れているのは、菅波の「日本人」に対するこだわりのせいなのですが、大勢集まれば共通項としてお祭りがでてくるのはとても自然なことのような気がします。

 バイオリンがうねうねとするインストの「ラクツ」、祭り囃子がとても素敵な「テーマ」、タンゴ全開の「未会のタンゴ」やら今でもよく覚えています。どしゃどしゃ賑やかにやっている曲もありますが、そんな曲でも意外に結構切ないです。

 録音はお世辞にもよいとは言えませんが、そのちょっと硬質なAMラジオを通して流れてくるような音は彼らのサウンドにとてもマッチしています。そうした音の表情が切なさの原因であるのかもしれません。

 菅波ゆり子の反省は、パンゴは「おわりの美学」的なものをロマンチックに歌いあげすぎたというものです。その過剰になりかねないぎりぎりのところがとても面白いと思うわけですが、長続きはしなかったのはその所以かもしれません。

 アルバムにはフリー・ジャズ全開の曲もありますが、そちらはあんまり面白くありません。パンゴはやっぱりもっとゆるくて、何かになりきっているような風情がよく似合います。やはり「おわりの美学」です。

 CDに寄せられた一言集の中でアーント・サリーのビッケによる言葉がいいです。ゆり子さんが「とげぬき地蔵のババアも着ないと思われるアッパッパーを着て、デッカイ黒のサングラスをしていた」という件。何だかパンゴの全てを表しているような気がします。

Edited on 2017/9/18

Waltz / Pungo (1995 Off Note Cut Out)