あれも聴きたいこれも聴きたい-IGCulture
 ピーター・バラカン氏の「魂の行方」を読んで、黒人音楽に対する思いを新たにしました。ただし、バラカン氏がもはやソウルは死んでしまったかのような書き方をされていることに対してはあまり同意できません。

 たとえば、このアイジー・カルチャーの作品などソウルに溢れていて素晴らしいと思います。そもそもジャケットからして気合が入っています。アフリカ大陸の形にコラージュされているのは、とてもブラックネスの濃い人々ばかりです。

 活動家では、有名なキング牧師やマルコムX、ジョン・レノンも歌ったブラック・パンサーのアンジェラ・デイヴィス、公民権運動のママー、エラ・ベイカー。スポーツ界からは言わずと知れたモハメッド・アリ。

 音楽界からはフェラ・クティ、サン・ラー、ボブ・マーリー、マーヴィン・ゲイなどなど。サン・ラーは土星人ですが、この際不問といたしましょう。同じクラブ・ミュージック仲間ではJディラの顔も見えます。実に濃い。

 この作品は、新しいブラック・ミュージックを追求する日本のフリーダム・スクール・レーベルの働きかけに応じてアイジー・カルチャーが制作したものです。「ブラック・ミュージックの全てを詰め込んだ」コンセプト・アルバムを構想して、見事にそれに応えています。

 アイジー・カルチャーは西ロンドンの天才プロデューサーで、ブロークン・ビーツの創始者とも言われます。その彼が本作ではブラック・ミュージックのクールなスタイルに、「歴史や痛み、ソウル」を吹き込んで作り上げました。

 これまでの彼の作品もとてもいい感じでしたけれども、どうも今一つなじめないものを感じていたのですが、この作品はつぼにはまりました。とてもストイックな作品です。偉大な先人達へのリスペクトがひしひしと感じられます。空気はクールに熱く引き締まっています。

 三部構成からなる本作品はそもそものコンセプトからして、アート・アンサンブル・オブ・シカゴが提唱する「グレート・ブラック・ミュージック」に通じるものがあります。実際、AECの母体となったシカゴの前衛ジャズ集団AACMのメンバーも参加しています。

 ブラック・ジャズ・レーベルを代表するダグ・カーンの名曲や元テンプテーションズのエディ・ケンドリックスのカバー、サン・ラーに捧げたようなフリー・ジャズ、ヒップ・ホップ、、ジャズ・ファンク、ブロークンビーツとブラック・ミュージックの歴史を網羅した万華鏡状態です。

 そこに一本筋を通しているのは、スピリチュアルな手触りです。曲と曲の接ぎ穂のようなところにふと幽霊のように姿を見せるソウルが眩しいです。まさにクールなお洒落音楽に、ソウルが注入されているのです。

 参加ミュージシャンはほとんど馴染みがありませんが、いずれ劣らぬ実力派であることは間違いありません。とりわけ、サーチャ・ウィアムソンやビラール・サラーム、ディー・アレキサンダーなどのボーカル陣の名前は覚えておいて損はなさそうです。

Edited on 2017/9/18

Zen Badizm / IG Culture (2008)